1970年代

1979年の映画(DVD)

1979年の映画(DVD)

アカデミー賞

★作品賞:「クレイマー、クレイマー」監督:ロバート・ベントン
※ジョアンナ(メリル・ストリープ)は結婚して8年。最初は幸せだった結婚生活も、今ではもう無意味なものに感じられていた。夫テッド(ダスティン・ホフマン)は仕事第一主義で帰宅はいつも午前様だ。2人の間には会話すらなくなっていた。7歳になる子供ビリー(ジャスティン・ヘンリー)のことを気にしながらも、ジョアンナは自分をとり戻すために家を出る決心をする。
ビリー役のジャスティン・ヘンリーはわずか8歳でアカデミー助演男優賞にノミネートされ、史上最年少記録を樹立した。

★監督賞:ロバート・ベントン「クレイマー・クレイマー」
※ロバート・ベントンは1932年9月29日、テキサス州ワクサーチ生まれ。テキサス州立大学、コロンビア大学に学んだ後、雑誌のイラストレイター兼ライターとして活躍。デヴィッド・ニューマンと知り合い、二人で映画の脚本を書き始める。その中の『ボニーとクライド』がワーナーの目に止まり、「俺たちに明日はない」として映画化され、アカデミー脚本賞にノミネートされたほか、ニューヨーク映画批評家協会賞など受賞。72年に「夕陽の群盗」で監督デビュー。作品数は少ないが秀作を造り続けている。

★主演男優賞:ダスティン・ホフマン「クレイマー・クレイマー」
※いくつかのシーンでダスティン・ホフマンのアイディアが生かされたため、ベントン監督は「共同脚本クレジット」を提案したが、ダスティン・ホフマンは「監督の脚本だから」と断った。脚本もアカデミーを受賞したのでホフマンは後年になって「アカデミー脚本賞も取れたのに」と笑って語っている。

★主演女優賞:サリー・フィールドノーマ・レイ
マーティン・リット監督作。過酷な労働条件を強いるアメリカ南部の紡績工場で働くノーマ・レイ(サリー・フィールド)。無自覚で無教養だった彼女はニューヨークからやってきた労働組合の活動家ルーベン(ロン・リーブマン)と出会い、権利意識に目覚める。やがて彼女は、労働組合の活動には消極的なソニー(ボー・ブリッジス)と再婚するが、家族や子供、そして仲間を守るため組合結成に立ち上がる。
サリー・フィールドは1946年11月6日、カリフォルニア州パサディナ生まれ。父はターザン俳優のジャック・マホニー。母親も女優。コロンビア撮影所の演技教室で学び、TVを経て67年、「大西部への道」で映画デビュー。本作に続き、84年、「プレイス・イン・ザ・ハート」で再びアカデミー賞主演女優賞を受賞。また、83年にフォッグウッド・フィルムを設立。91年、ジョエル・シューマカー監督、ジュリア・ロバーツ主演の「愛の選択」では製作も手掛けている。他に、「マグノリアの花たち」などに出演している。

★助演男優賞:メルビン・ダグラスチャンス
ハル・アシュビー監督作。数十年もの間、屋敷から一歩も出ることなく、社会とのつながりはテレビだけだった庭師チャンス(ピーター・セラーズ)。全く世間知らずの彼が、主人の死によって屋敷の外での生活を余儀なくされる。お金の使い方も知らず、車にも乗ったことない彼が、途方にくれて街を彷徨していた時、大富豪ベンジャミン(メルビン・ダグラス)の夫人イヴ(シャーリー・マクレーン)の車と接触事故に会う。豪邸で療養することになった彼は、その無垢な言動で富豪夫妻の心をしだいに捉えていく。彼の子供のような純粋な心は、富豪の友人である大統領にまで感化し、彼の存在は瞬く間にアメリカ全土に広く知れ渡っていく。
メルビン・ダグラスはこの年のゴールデングローブ賞助演男優賞も主演男優賞のピーター・セラーズと共に受賞した。なおピーター・セラーズはこの翌年、この世を去った。

★助演女優賞:メリル・ストリープ「クレイマー・クレイマー」
※1949年6月22日ニュージャージー生まれ。ヴァッサー大学とイェール・スクール・オブ・ドラマ(シガニー・ウィーバーがクラスメイト)で学び、舞台を経て1977年の「ジュリア」で映画デビュー。現在まで出演作は40本を越え、アカデミー賞には俳優としては史上最多の13回ノミネートされているハリウッドきっての演技派。その演技に対する姿勢は、役に成りきるため事前に徹底したリサーチを行う。彼女がオスカーを獲得した「ソフィーの選択」では役作りのためにポーランド訛りの英語を習得した。また、「ディア・ハンター」、「恋におちて」、「マイ・ルーム」などで共演したロバート・デ・ニーロは、ストリープを自分と最も息の合う女優といっている。

ベネチア映画祭
※開催中止


カンヌ映画祭

★パルムドール:
☆「ブリキの太鼓」 監督:フォルカー・シュレンドルフ
※原作は、1999年度のノーベル文学賞を受賞したギュンター・グラスの長篇小説「ブリキの太鼓」(1959年。現在、日本では文庫本で、「ブリキの太鼓 第1部」「ブリキの太鼓 第2部」、「ブリキの太鼓 第3部」が出版されている)。「猫と鼠」(1961年)、「犬の年」(1963年)と続く「ダンツィヒ三部作」の最初を飾る作品で、戦後ドイツ文学の最も重要な作品の一つ。
1924年、国際自由都市ダンツィヒ。オスカル (ダヴィット・ベネント) は、ナチスを信奉するドイツ人の父アルフレート(マリオ・アドルフ)とカシュバイ人の母アグネス(アンゲラ・ヴィンクラー)との間で生まれた。母は従兄のポーランド人ヤン(ダニエル・オルブリフスキ)と浮気をしている。そして眼前で起こる醜悪な事態の数々に失望したオスカルは3歳の誕生日に成長を止めることを決意する。オスカルは3歳の誕生日に貰ったブリキの太鼓を叩き続け、嫌なことがあると奇声をあげてモノを破壊する。そして時代は変わり、ナチスが台頭して、ついに第三帝国を成立させる。

☆「地獄の黙示録」 監督:フランシス・F・コッポラ
※1960年代末のヴェトナム。ウィラード大尉(マーティン・シーン)は、ジョングルの奥地で王国を築いたとされるカーツ大佐(マーロン・ブランド)を暗殺する命令を受け、部下4人とナング河を溯っていく。その過程でウィラードが遭遇するさまざまな戦争、そして人生の狂気。やがて彼はカーツと対峙する。アカデミー賞で撮影賞、音響賞、カンヌ映画祭グランプリ、ゴールデングローブ賞監督賞、助演男優賞(キルゴア中佐役でロバート・デュヴァル)などの映画賞をとったが興行的には大失敗で、その借金の返済のために「ゴッドファーザー PART III」が製作された。

★監督賞:テレンス・マリック天国の日々
※本賞以外に、ネストール・アルメンドロスが1978年アカデミー撮影賞受賞。その他、作曲賞・音響賞・衣装デザイン賞にノミネート。全米批評家協会賞監督賞、撮影賞受賞。

★主演男優賞:ジャック・レモンチャイナ・シンドローム
※ジェームズ・ブリッジズ監督作。ロスの人気TVキャスター、キンバリー(ジェーン・フォンダ)はキャメラマンのアダムス(マイケル・ダグラス)らと原子力発電所を取材。そのとき異様な振動とともに制御室で技師ゴデル(ジャック・レモン)が慌てふためいている現場に遭遇した一行は、原発事故の真相を世に訴えようとする。
ジャック・レモンは、1925年2月8日マサチューセッツ州ボストン生まれ。ハーヴァード大学で学び、海軍を経て、ラジオドラマから俳優のキャリアをスタートさせた。ビリー・ワイルダー監督作品「お熱いのがお好き」、「あなただけ今晩は」、「アパートの鍵貸します」、「恋人よ帰れ!わが胸に」などで有名。1955年の「ミスタア・ロバーツ」でアカデミー助演男優賞を、1973年の「セイブ・ザ・タイガー」でアカデミー主演男優賞を受賞。2001年6月27日他界。

★主演女優賞:サリー・フィールド「ノーマ・レイ」
※ ジェニファー・ウォーンズが歌いアカデミー賞主題歌賞を受賞した<流れゆくままに>「奇跡なんか生まれない 人間は毎日生きてゆく 奇跡なんか起こらない 人間はただ育ってく 川が流れてゆくように そして時が過ぎてゆく 良いことが少しずつ増えて 悪いことがなくなってゆく 働く者の子に恵みを 冷たい風に晒されて 働く者の手に恵みを 汗にまみれて生きてゆく 川が流れてゆくように そして時が過ぎてゆく 良いことが少しずつ増えて 悪いことがなくなってゆく」

★審査員特別賞:Siberiade(ソ連)

★国際批評家賞:
☆地獄の黙示録(米)
☆Black Jack(英)
☆Anji Vera(ハンガリー)


★この年の主要な作品

◆「リトル・ロマンス」 監督:ジョージ・ロイ・ヒル
※パリ郊外のアパルトマンで父と2人暮らしのダニエル(テロニアス・ベルナール)は、13歳だが、記憶力と数字が強い天才的な頭の持ち主。ある日、ローレン(ダイアン・レイン)という美しい少女と知り合いになる。哲学と数学が優秀なローレンは、たちまちダニエルと意気投合、再会を約束して別れた。ルーブル宮殿の庭園で再会した二人は、そこでジュリアス(ローレンス・オリヴィエ)という老人と知り合いになった。彼は二人に、ベネチアにある「ため息の橋」の下で日没の瞬間にキスした恋人たちは永遠の愛を手にすることができるという「サンセット・キッス」の伝説を語って聞かせる。それを信じた二人は・・・。アカデミー賞音楽賞受賞。

◆「オール・ザット・ジャズ」 監督:ボブ・フォッシー
※ブロードウェイ。ジャズに乗って、ステージの上を鍛えられた肉体が躍動する。それを厳しい表情で見守る1人の男がいた。ブロードウェイの演出家・映画監督として知られるジョー・ギデオン(ロイ・シャイダー)だ。今、彼が手がけているショーは、主演女優が彼の別れた妻オードリー(リランド・パーマー)で、ジョーと同棲中のケイト(アン・ラインキング)も出るなど、彼の人生のすべてを盛り込んだ、集大成ともいえるものだった。そんなある日、ジョーは、不規則な生活と過労のため倒れてしまった。心臓の切開手術を受けながら、ジョーは無意識のうちに自分の人生を回顧していた。
主人公のモデルはボブ・フォッシー監督自身である。
又、時折主人公に話しかける女神(死神か?)役でジェシカ・ラングが出演している。

◆「エイリアン」 監督:リドリー・スコット
※宇宙船ノストロモ号は地球に戻る航路についていた。だが、乗組員が調べてみるとコンピューター「マザー」が途中で航路を変え、銀河の果てにいた。知的生物が発していると思われる電波を受信したので、調査しろと言うのだ。パーカー(ヤフェット・コットー)とブレット(ハリー・ディーン・スタントン)は反対するが、アッシュ(イアン・ホルム)は会社との契約の中に「地球外生命の調査」を優先する事項があると指摘。ダラス船長(トム・スケリット)は惑星探査を行うことを決める。ダラス船長とケイン(ジョン・ハート)、ランバート(ヴェロニカ・カートライト)の3人が惑星の地表に降り、そこで化石化した異星人を発見。ところがそばに卵のようなものがまだ生きており、のぞき込んだケインの顔面に、奇妙な生物がべったりと張り付いてしまう。急いで戻った3人。船に残っていたリプリー(シガニー・ウィーバー)は検疫が終わるまでは船内に入ってはいけないと主張するが、なぜかアッシュがあっさりと3人を船内に入れてしまう。
アカデミー賞視覚効果賞受賞。クリーチャー・デザインはスイスの画家H.R.ギーガー。

◆「マッドマックス」 監督:ジョージ・ミラー
※近未来、暴走族による殺人やリンチが横行していた。暴走族専門の特殊警察「M.F.P」所属の警官マックス(メル・ギブソン)は、追跡専門に改造されたパトカー「インターセプター」で警官殺しの凶悪犯ナイトライダーを追いつめたが、ナイトライダーは工事現場に突っこみ即死する。マックスは、ナイトライダーの復讐のためにトーカッター(ヒュー・キース・バーン)率いる凶悪暴走族「アウトライダー」に命を狙われる。僚友のジム・グース(スティーヴ・ビズレー)が殺されたのをきっかけに、上司のフィフィ・マカフィー(ロジャー・ワード)に辞表を出し家族と共に逃亡するが、妻のジェシー(ジョアン・サミュエル)と息子スプロッグは逃亡先に現れたアウトライダー達になぶり殺しにされてしまう。マックスの怒りは頂点に達し、短距離追撃専用車両、「V8インターセプター(ブラック・インターセプター)」に乗り込み、暴走族たちを見つけては次々と血祭りにあげていく。そして、ついにトーカッターとの壮絶なチェイスを迎える。

◆「スター・トレック」 監督:ロバート・ワイズ
※巨大な雲状の未知の生命体が、進路上にある宇宙船やステーションを消滅させながら地球を目指し進んでいた。提督に昇進したカーク(ウィリアム・シャトナー)は地球にいたが、大改装されたエンタープライズの指揮を執りスポック(レナード・ニモイ)やDr.マッコイ(ディフォレスト・ケリー)たちオリジナルクルーと調査に向かう。カークは地球までわずかの距離にまで接近していた雲の中に「ヴィジャー」と名乗る謎の存在がいることを突き止めた。ヴィジャーは自らを造り出した創造者(クリエイター)を捜しにきたと言う。地球上にいる炭素ユニット(人類)達が創造者との交信を阻んでいると判断したヴィジャーはその抹殺を計るが、機転を利かせたカークが創造者を教える条件で直接ヴィジャーに会いに行く。そこでカーク達は謎の存在「ヴィジャー」とその「創造者」の意外な正体を知る。SFXは、ダグラス・トランブル、ジョン・ダイクストラ、ロバート・エイブルで、当時の劇場映画の最高水準の宇宙空間やエンタープライズ号の特撮が素晴らしい。

1970年代

1978年の映画(DVD)

1978年の映画(DVD)

アカデミー賞

★作品賞:「ディア・ハンター」監督:マイケル・チミノ
※マイケル(ロバート・デ・ニーロ)、ニック(クリストファー・ウォーケン)、スチーブン(ジョン・サヴェージ)、スタン(ジョン・カザール)、アクセル(チャック・アスペグラン)の5人は町の製鋼所に勤める親友で、休日の鹿狩りが楽しみだった。ベトナムに徴兵されたマイケル、ニック、スチーブンは偶然、戦場で再会する。しかし、北側の攻勢は激しく、3人は捕虜になってしまう。グループのアイドルで、ニックの婚約者リンダにメリル・ストリープ

★監督賞:マイケル・チミノディア・ハンター
※ベトナム戦争と真っ向から取り組んだ良心作として評価される一方で、アメリカの反体制側や当時の共産圏諸国からは、ロシアン・ルーレットなどベトコンの描き方が悪意と偏見に満ちていると非難された。だが、それがかえってアメリカの映画人の反発や、チミノへの同情を生んだ。

★主演男優賞:ジョン・ボイト帰郷
※監督:ハル・アシュビー。ベトナム戦争に夫である海兵隊大尉ボブ(ブルース・ダーン)が出征した後、ボランテイアで軍の病院で働くサリー(ジェーン・フォンダ)は下半身不随の傷病兵となった元高校の同級生ルーク(ジョン・ヴォイト)と出会い、次第に恋に落ちていき、反戦運動を始めていくが、やがて夫が帰還する。

★主演女優賞:ジェーン・フォンダ帰郷
※「帰郷」は、当時反戦運動家だったジェーン・フォンダが企画した。「ディア・ハンター」や本作の公開がきっかけとなり、この後、「ベトナム後遺症映画」がたくさん製作された。

★助演男優賞:クリストファー・ウォーケンディア・ハンター
※クリストファー・ウォーケンは1943年3月31日ニューヨーク市生まれ。父親はドイツ系、母親はスコットランド系。映画デビュー以前も舞台作品において数々の賞を受賞している。エキセントリックな役柄を得意とする名バイプレーヤーであり、カルト的なファンを多く持つ。また仕事を選ばないことでも有名。スティーブン・スピルバーグ 監督「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」でアカデミー助演男優賞ノミネート・英国アカデミー賞助演男優賞受賞。

★助演女優賞:マギー・スミス「カリフォルニア・スイート」
※マーガレット(マギー)・ナタリー・スミスは1934年12月28日生まれ。オックスフォード大学演劇科で学び、1956年に映画デビュー。1969年、『ミス・ブロディの青春』でアカデミー主演女優賞を受賞。イギリス王室よりデイムに叙勲されている。
他の出演作は、「名探偵登場」「ナイル殺人事件」「地中海殺人事件」「眺めのいい部屋 」「天使にラブ・ソングを…」「天使にラブ・ソングを 2」「リチャード三世」「ゴスフォード・パーク」「ハリー・ポッターと賢者の石」「ハリー・ポッターと秘密の部屋」「ラヴェンダーの咲く庭で」「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」など多数。

ベネチア映画祭
※開催中止

カンヌ映画祭
★パルムドール:「木靴の樹」監督・脚本・撮影(編集):エルマンノ・オルミ
※イタリア北部、ポー川流域、ベルガモ地方の寒村。住み込みで生活している小作人の四家族。そのなかのバティスティ家のミネク(オマール・ブリニョッリ)は、神父の説得により、六キロ離れた小学校へ毎日通っている。ある日、彼の履く木靴が壊れてしまい、不憫に思った父親(バティスタ・トレヴァイニ)は、農場のポプラの樹を切り倒して、秘かに新たな木靴を作ってやる。しかし、地主にこのことが伝わり、バティスティ家は、どうすることも出来ずこっそりと見送る小作人仲間を背に、未だ暗い早朝、農場を追放される。プロの俳優は一切使わず、本物の農民達を、太陽の自然光とロウソクの光だけで撮影した。

★監督賞:大島渚愛の亡霊
※原作は中村糸子「車屋儀三郎事件」。1895(明治28)年、北関東のある村。人力車夫儀三郎(田村高廣)の女房せき(吉行和子)は四十を過ぎていて二人の子供がいるのに、三十そこそこにしか見えない。そんなせきは若い兵隊帰りの豊次(藤竜也)と恋仲になり、共謀して夫を殺すが、夫は幽霊となって二人を悩ます。日仏合作で映画化。

★主演男優賞:ジョン・ボイト「帰郷」
※ジョン・ボイトは、NYのカトリック大学で舞台美術、演出、演技を学ぶ。その後、舞台、TV出演へて67年に「墓石と決闘」で映画デビュー。その2年後、「真夜中のカーボーイ」で共演したダスティン・ホフマンと共にアカデミー主演賞候補となった。惜しくも受賞は逃すが、ヴォイトはNY批評家賞を受賞して一躍注目を浴びる。2度目の結婚(後に離婚)で一男一女をもうけ、息子ジェームズは助監督、娘のアンジェリーナは女優になっている。

★主演女優賞:
イザベル・ユベール「ヴィオレット・ノジェール」
※イザベル・ユベールは1955年パリ生まれ。大学時代に演劇に興味を持ち、パリのコンセルバトワールで学び、1971年に「夏の日のフォスティーヌ」でデビュー。ミヒャエル・ハネケ監督・脚本「ピアニスト」、ジャン=リュック・ゴダール監督・脚本「パッション」、フランソワ・オゾン 監督「8人の女たち」、オリヴィエ・ダアン監督「いつか、きっと」などに出演。

ジル・クレイバーグ「結婚しない女」

★審査員特別賞:
ザ・シャウト/さまよえる幻響 監督:イエジー・スコリモフスキー
※精神病院でのクリケット大会で、妻(スザンヌ・ヨーク)と二人で暮らしている電子音楽の作曲家アンソニー(ジョン・ハート)はアボリジニの村で18年間暮らし、魔術を身に付けたという奇妙な患者(アラン・ベイツ)と出会う。その男はシャウト=絶叫で人を殺せるというのだが…。衝撃の音響ホラー。

☆バイバイ・モンキー コーネリアスの夢

★国際批評家賞:
☆大理石の男 監督:アンジェイ・ワイダ
※1950年代スターリン時代のポーランド。主人公は煉瓦工で煉瓦積競争の新記録を打ち立てるところを映画に撮られ、宣伝されたために労働者の英雄として評価され、大理石像になった。今では忘れ去られて放置されていた大理石像を見つけた映画大学の学生。彼女がその男の真実の姿を求めていきながら、 ポーランドの政治的な部分に関わっていく様子をドキュメンタリータッチで描く。アンジェイ・ワイダは1954年、「世代」で映画監督デビュー。「地下水道」「灰とダイヤモンド」 「夜の終わりに」「鉄の男」「パン・タデウシュ物語」など傑作が多いが、DVDは「鷲の指輪」ぐらいしか見当たらない。

☆The Smell of wild Flowers」


★この年の主要な作品

◆「天国の日々」監督:テレンス・マリック
※20世紀初頭。シカゴの鉄鋼所で働いていたビリー(リチャード・ギア)は過ってひとりの男を殺害してしまい、恋人アビー(ブルック・アダムズ)と妹リンダ(リンダ・マンズ)を連れて街を逃げ出し、テキサスへやって来る。やがて、3人はある農場の麦刈り人夫にやとわれた。ビリーはアビーを妹といつわる。安息の場所となるはずだったが、農園主チャック(サム・シェパード)がアビーをみそめてしまったことから物語は一気に悲劇的な結末に向かって進んで行く。ネストル・アルメンドロスがリアルな美しい映像でアカデミー撮影賞受賞。

◆「バディ・ホリー・ストーリー」監督:スティーヴ・ラッシュ
※1956年、テキサス州ラボック。ラジオ放送でロックを演奏した事でホリー(ゲイリー・ビューシイ)たちは町中から非難されたが、音楽への姿勢を崩さなかった。しかし、局の人間がたまたま送ったデモ・テープがNYで大ヒット。メンバーはNYへ招かれ、レコード会社と契約。黒人の音楽だったロックを初めて白人としてアポロ劇場で演奏、黒人たちからも拍手喝采を浴びる。サム・クックとのツアー、TV出演とメンバーは大スターへと上り詰めて行く。ホリーはレコード会社秘書のマリアと結婚。すべてが順風満帆に見えたが・・・後のビートルズなどに大きな影響を与えたアメリカのロック草創期に活躍したミュージシャン、バディ・ホリーの半生。

◆「イッツ・フライデー」監督:ロバート・クレイン
※ロサンジェルスのディスコ「ザ・ズー」には、今夜もDJのボビー(レイ・ヴィット)の声が響いていた。今夜はビッグ・ダンス・コンテストが行なわれる日。ポルシェを乗り回しているオーナーのトニー(ジェフ・ゴールドブラム)もノリノリ。美しく才能のあるシンガー、ニコル(ドナ・サマー)、ダンスよりボーイハントが目当てのOLジェニファー(デブラ・ウィンガー)とマディ(ロビン・メンケン)、5回目の結婚記念日を迎えたデイブ(マーク・ロナウ)と妻のスー(アンドレア・ハワード)、ヒッチハイクでやって来た15歳の女の子たち、フラニー(バレリー・ランズバーグ)とジーニー(テリー・ナン)など、沢山の若者たちが「ザ・ズー」に押しかけ、ザ・コモドアーズの演奏の中、優勝をめざして踊り競う!! DVDは2007年1月31日までの期間限定出荷。

◆「秋のソナタ」監督:イングマール・ベルイマン
※有名なピアニストであった母親シャーロッテ(イングリッド・バーグマン)を7年振りに自宅に招いた娘エヴァ(リヴ・ウルマン)。そこでシャーロッテは脳性小児麻痺の次女レナ(レナ・ニーマン)とも再会する。やがて、エヴァはそれまで内にたまっていた母ヘの怒りを爆発させる。有名なピアニストであり、奔放な恋に生きる母親を、イングリッド・バーグマンが好演しているが、この役は実生活での彼女に最も近いと思わせるものだ。また、1982年に亡くなったバーグマンの遺作となった。

◆「マリア・ブラウンの結婚」監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
※敗戦前夜に結婚し、翌日には夫ヘルマン(クラウス・レーヴィッチュ)を戦場に送り出したヒロイン・マリア(ハンナ・シグラ)の、意志力と打算で混乱の世の中を渡り切ろうとする生き様を通して、ナチ時代から戦後復興期までのドイツを浮彫にした。ハンナ・シグラはこの作品でベルリン映画祭主演女優賞を獲得。DVDは「ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーDVD-BOX 1」として、ファンの人気を集めたギャング映画「愛は死より冷酷」、作家としてファスビンダーの本質が発揮された「自由の代償」、ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞するなど最も評価された「マリア・ブラウンの結婚」の3作と、短篇「宿なし」「小カオス」を収録。

◆「天国から来たチャンピオン」監督:ウォーレン・ベイティバック・ヘンリー
※ロサンゼルス・ラムズのQBジョー(ウォーレン・ベイティ)は、次の日曜日の試合に出場することが決まっていた。だが、翌日、自動車事故に遭い、気がつくと雲の中で、天使(バック・ヘンリー)につきそわれて天国へと向かっていた。ところが天使長(ジェームズ・メイスン)が調べたところによると、ジョーには、まだ50年もの寿命が残っていた。ジョーは即刻地上に舞い戻ることになったがすでに彼の肉体は火葬された後だった。「幽霊紐育を歩く」(1941年)のリメイク。主人公をボクサーからアメリカン・フットボールの選手に変えている。他に、ジュリー・クリスティ、ジャック・ウォーデン らが出演している。

◆「ビッグ ウェンズデー」監督:ジョン・ミリアス
※1960年代初め、カリフォルニアの海辺の町にはマット(ジャン=マイケル・ビンセント)、ジャック(ウィリアム・カット)、リロイ(ゲイリー・ビジー)を中心とする若者たちが、サーフィンを通じてグループを作っていた。彼らの夢は水曜日にやって来るという世界最大の波ビッグ・ウェンズデーに挑戦することだった。他に、パティ・ダーバンヴィル、リー・パーセル、サム・メルヴィルらが出演している。

◆「スーパーマン」監督:リチャード・ドナー
※高度な文明を誇りながらも崩壊の危機に瀕していたクリプトン星の執行官ジョー・エル(マーロン・ブランド)は自分の息子カル・エル(ジェフ・イースト)を救うためカプセルに乗せ、未開の惑星「地球」へと放出した。直後クリプトン(秘密の星を意味する)は崩壊し、赤ん坊は惑星の遺児となった。放出されたカプセルはアメリカ合衆国カンザス州スモールヴィルに飛来し、そこでジョナサン(グレン・フォード)&マーサ(フィリス・サクスター)・ケント夫妻に拾われた。長らく自分たちに子どものいないことを悩んでいたケント夫妻はその子をクラークと名付け、育てることにした。スーパーマンの実の父をマーロン・ブランド、悪の救世主レックス・ルーサーをジーン・ハックマンが演じている。

◆「ハロウィン」監督・脚本(共同)・音楽:ジョン・カーペンター
※15年前、6歳の時に姉を殺害した少年・マイケルが、収容されていた精神病院を脱走して故郷へ向かった。ハロウィンの夜、子守をするハメになった女学生のローリー(ジェイミー・リー・カーティス)は、白塗りの不気味な仮面をつけた男を目にする。それはハロウィン・マスクをかぶり残酷な手口で次々と殺人を繰り返すマイケル(トニー・モラン)だった。彼は悪魔の化身でハロウィンの夜に現れる伝説のブギーマンに違いないと確信するマイケルの担当医ルーミス(ドナルド・プレザンス)は、彼は抹殺しようと後を追う。そして、ジョン・カーペンターの音楽が恐怖を煽る。低予算(32万5000ドル)で、しかも撮影期間22日で製作されたが、大ヒットを記録。最も人気のあるホラー映画の1つとなり、2002年までに8の続編が作られた。又、9作目「Halloween 9(仮題)」も2007年製作予定。

◆「ゾンビ」監督:ジョージ・A・ロメロ
※全米各地で、突如として死者たちが蘇り人々を襲い始めた。人々の抵抗もむなしく、ゾンビは勢力を増していった。SWATのロジャーとピーターは、テレビ局に勤める友人のスティーブン、その恋人のフランと共にヘリで脱出を図る。日本公開版では、死者たちの復活する理由を、オープニングで「ある惑星の爆発で、死体を蘇らせる光線が発せられ、それが地球で眠る死者に影響を与えたため蘇った」と説明している。

1970年代

1977年の映画(DVD)

1977年の映画(DVD)

アカデミー賞

★作品賞:「アニー・ホール」監督:ウディ・アレン
※NYで優雅な独身生活を送っていたナイトクラブのスタンダップ芸人アルビー(ウディ・アレン)は歌手志望のアニー(ダイアン・キートン)と出逢い、自由な交際という約束で彼女と付き合い始め、やがて同棲する。なんとなくうまくいっていた二人だが時がたつにつれて、お互いのアラが目についてきた。そんな時、アニーは人気歌手トニー(ポール・サイモン)から歌を褒められ、ハリウッド行きを勧められる。アルビーは引きとめるがアニーは旅立つ決意を固める。

★監督賞:ウディ・アレン「アニー・ホール」
※「涙の出るコメディー、極上のラブストーリー」とチャップリンが絶賛した本作はウディ・アレンの私小説的な映画。アレン自身もスタンダップの出身であり、アニー役は実際に同棲の後別れたダイアン・キートンである。また、ウディ・アレンがジャズ好きである事は有名だが、アカデミー賞授賞式を欠席して、定例のセッションであるという理由で、同時刻にN・Yのジャズ・クラブで演奏していた。

★主演男優賞:リチャード・ドレイファスグッバイガール
※ハーバード・ロス監督作。脚本はニール・サイモン。ポーラ(マーシャ・メイスン)とルーシー(クィン・カミングス)母子が二人暮しをしているところにエリオット(リチャード・ドレファス)が尋ねてきてアパートの所有権を主張する。男にだまされっぱなしの二人はエリオットを入れまいとするが、お金を払っていた彼は結局、同居することになる。リチャード・ドレイファスのコメディに徹した演技が印象に残る。

★主演女優賞:ダイアン・キートン「アニー・ホール」
※ダイアン・キートンは、1946年1月5日ロサンゼルス生まれ。ニューヨークのネイバーフッド・プレイハウスで演技を学び、ブロードウェイのミュージカル「ヘアー」に出演。1970年にはウッディ・アレンの舞台「ボギー!俺も男だ」にも出演し成功。その後アレンとは公私にわたるパートナーとなり、彼の多くの映画に出演している。メグ・ライアン主演の「電話で抱きしめて」では監督もこなした。

★助演男優賞:ジェーソン・ロバーズ「ジュリア」
※劇作家リリアン・ヘルマンの自伝小説「ジュリア」を元に、地下組織に身を投じて反ナチ活動を進めるジュリアとの友情を軸に、サスペンス・タッチも交えて描いたフレッド・ジンネマン監督の秀作。
1934年、劇作家リリアン・ヘルマン(ジェーン・フォンダ)は、恋人のハードボイルド作家ダシェル・ハメット(ジェーソン・ロバーズ)と海辺の家で創作に取り組んでいた。リリアンは古い友人ジュリア(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)を回想する。
ジェーソン・ロバーズ演じるハメットは、リリアンを頑強な女性と呼び、30年間生活をともにしてリリアンを支えた。DVDは製造中止。

★助演女優賞:バネッサ・レッドグレーブ「ジュリア」
※この映画ほど助演が生彩を放った作品は稀だ。ジュリアのバネッサ・レッドグレーヴ、ハメットのジェーソン・ロバーズ。ともに主役のジェーン・フォンダがかすんでしまうくらい、存在感は強烈だった。また、これがデビュー作であるメリル・ストリープもすでに貫禄の演技を見せる。


ベネチア映画祭
※開催中止


カンヌ映画祭

★パルムドール:「父 パードレ・パドローネ」監督・脚本:パオロ&ビットリオ・タビアーニ
※イタリアのサルディーニャ島を舞台に、羊飼いの厳格な父(オメロ・アントヌッティ)に学校から連れ出され、読み書きを習わずに育った文盲の少年カヴィーノ(ファブリツィオ・フォルテサヴェリオ・マルコーニ)が父に反発しながらも言語学者として大成する姿を描く。原作は言語学者ガヴィーノ・レッダの自伝「父パードレ・パドローネ―ある羊飼いの教育」。原作者本人も最初と最後に登場する。また、タイトルのパードレは父で、パドローネは主人の意である。

★主演男優賞:フェルナンド・レイ「エリサ、わが命」
※監督は、「血の婚礼」「カルメン」「恋は魔術師」のフラメンコ三部作で名声を確立したカルロス・サウラ

★主演女優賞:
シェリー・デュバル「三人の女」
※カリフォルニアのパーム・スプリングスを舞台に、女性3人の関わりを通じて女同志の虚栄、反発、嫉妬などの感情のからみを描いた、ロバート・アルトマン製作・監督・脚本の映画。シェリー・デュヴァルは老人患者専門のリハビリテーション・センターで働く付添い看護人ミリー・ラモローを演じた。他に、「シャイニング」「アニー・ホール」 等に出演している。
モニク・メルキュール「写真家J・A・マルタン」
※モニク・メルキュールは、フランソワ・ジラール監督の「レッド・バイオリン」などに出演している。

★国際批評家賞:
☆「父/パードレ/パドローネ」(伊)
☆「九ヶ月」(ハンガリー)


★この年の主要な作品

◆「スター・ウォーズ」 監督:ジョージ・ルーカス
※人種問題や国際問題がからみ、善玉・悪玉の設定が難しい現代において、思い切り「他愛もない活劇」を作るとしたら、舞台は宇宙しかないと考えたジョージ・ルーカス。ホース・オペラ(西部劇)をもじって、「スペース・オペラ」という言葉も生み、史上空前の大ヒット作となった。出演は、マーク・ハミル, ハリソン・フォード, キャリー・フィッシャー, アレック・ギネスほか。

◆「未知との遭遇」監督:スティーブン・スピルバーグ
※電気技師のロイ(リチャード・ドレイファス)は、町の停電を調べている際にUFOと遭遇。やがて彼は、その光の虜となり、会社を首になり妻子に見放されながらも、光を追いかける。そしてついにたどり着いた先で、彼が見たものとは・・・。原題の「Close Encounters of the Third Kind (第三種近接遭遇)」は、元アメリカ空軍 UFO 研究部顧問のアレン・ハインネックの著書で提唱された用語。ハイネックは本作のスーパーバイザーを務め、作品中にもチラリと登場している。

◆「愛と喝采の日々」監督:ハーバート・ロス
※プリマ・バレリーナとして成功したエマ(アン・バンクロフト)と、結婚してバレエ界を引退したディーディー(シャーリー・マクレーン)。2人の対照的な人生を中心に、女の幸福は結婚か、それとも仕事をもった自立した人生を生きることか?と問いかけ、ディーディーとエマの勧めでバレリーナになるエミリア(レスリー・ブラウン)親子の情愛を盛りこみながら展開される人生ドラマ。エミリアの恋人役でミハイル・バリシニコフが映画初出演。

◆「サタデー・ナイト・フィーバー」監督:ジョン・バンダム
※ニューヨークのペンキ屋で働くトニー(ジョン・トラボルタ)は、変わりばえのない毎日の生活にうんざりしていた。彼の生き甲斐は土曜日の夜(サタデーナイト)にディスコ「2001年オデッセイ」で踊り明かすことだけ。そこではトニーはダンス・キングだ。ある日、ディスコで年上の女性ステファニー(カレン・リン・ゴーニイ)に出会い、自分の生き方を考え直すようになる。ジョン・トラボルタの華麗なダンスはもちろん楽しめるが、テーマ性をもったストーリーもしっかりしている映画だ。ビージーズ他のサントラ「サタデー・ナイト・フィーバー」も大ヒットした。

◆「ニューヨーク、ニューヨーク」監督:マーティン・スコセッシ
※第二次世界大戦が終った日のニューヨークで出会った、サックス奏者ジミー(ロバート・デ・ニーロ)と人気歌手フランシーヌ(ライザ・ミネリ)。愛し合いながらも愛する音楽のため別れなければならない二人の愛と別れ。

◆「ブラック・サンデー」監督:ジョン・フランケンハイマー
※ベイルートのテロ組織「黒い9月」(マルト・ケラー、ブルース・ダーンら)は、マイアミで開催されるスーパーボウルの襲撃を計画。8万人の観客がテロの標的となる。そのことを知ったイスラエル特殊部隊カバコフ少佐(ロバート・ショー)は組織のアジトを急襲する。クライマックスの気球船を用いたスーパーボウル襲撃シーンが名高い。原作は「羊たちの沈黙」「ハンニバル」のトマス・ハリスの小説。なお、日本では「政治的配慮」で上映禁止となった。

◆「特攻サンダーボルト作戦」監督:アーヴィン・カーシュナー
※1976年6月27日、テルアビブ発パリ行きのエール・フランス機が、アテネ空港出発30分後にハイジャックされた。乗客の中にユダヤ人90名がいる。飛行機はウガンダのエンテベに着陸した。イスラエルのラビン首相(ピーター・フィンチ)はダン・ショムロン准将(チャールズ・ブロンソン)を司令官に150人の精鋭部隊が組織し、人質救出を命じる。作戦名は「サンダーボルト」。エンテベでユダヤ人以外の人質全員が解放された。テロリストたちの要求は世界各国に拘留されているゲリラ53人を釈放せよ、というもの。要求のタイム・リミットの前日、救出部隊がエンテベ空港に着陸、ロビーのゲリラ7人を撃ち殺し、人質全員を乗せて離陸するまで、わずか53分の救出作戦だった。これも当時、日本では「政治的配慮」で上映禁止となった。DVD未発売。

◆「マイ・ソング」監督:ジョセフ・ブルックス
※無名の下積み女性タレントローリー(ディディ・コン)が恋をし、恋に破れ、再び生きていく姿を描く。ローリーの歌う「ユー・ライト・アップ・マイ・ライフ」がアカデミー賞音楽(主題歌)賞受賞。DVD、VHS未発売。

◆「欲望のあいまいな対象」監督:ルイス・ブニュエル
※ピエール・ルイスの小説『女と人形』の五度目の映画化。美しい小間使い(キャロル・ブーケアンヘラ・モリーナの2人1役)に魅せられた紳士(フェルナンド・レイ)が体験する女の二面性の不思議。どこまでも堕ちてゆく甘美で残酷な愛。フランス、スペイン、アメリカ、メキシコで多種多様な映画を撮ったルイス・ブニュエルは1983年肝硬変で亡くなり、これが遺作となった。

◆「機械じかけのピアノのための未完成の戯曲」監督:ニキータ・ミハルコフ
※チェーホフの戯曲「プラトーノフ」と短編「地主屋敷で」「文学教師」「三年」「わが人生」をモチーフにして映画化。将軍の未亡人邸で催された結婚披露パーティー会場を舞台に、将軍の息子である新郎と新婦ソフィア、新婦の昔の恋人で村の教員ミハイル・プラトーノフとその妻アレクサンドラ(サーシャ)など、会場に集まったそれぞれの関係が描かれていく。今やロシアを代表する映画監督の一人となったニキータ・ミハルコフの初監督作。出演は、アントニーナ・シュラーノワ、アレクサンドル・カリャーギン、エレーナ・ソロヴェイ、ユーリー・ボガトイリョフ、エフゲニヤ・グルシェンコ、ほか。

1970年代

1976年の映画(DVD)

1976年
アカデミー賞
★作品賞:ロッキー(ジョン・G・アビルドセン)
※売れない俳優だったシルヴェスター・スタローンは1975年7月6日、世界ヘビー級タイトルマッチ「モハメド・アリチャック・ウェプナー」の試合をテレビで観戦する。最強のチャンピオンアリに対し、ウェプナーはスタローン同様繰り返す転職の中で日銭を稼いでいた。誰が見ても勝ち目がないウェプナーであったがアリからダウンを奪うなど予想外の善戦をする。アリは勝利こそしたが、対戦後に「二度と対戦したくない」と言ったのである。アリをダウンさせたその瞬間、ウェプナーは偉大なボクサーとなり人々の心に永遠に刻まれると考えたスタローンはこの出来事を基に僅か3日で脚本を書き上げた。また、試合のあった7月6日は、スタローン29歳の誕生日でもあった。
★監督賞:ジョン・G・アビルドセン「ロッキー」
※CM制作をしていたアビルドセンは、監督募集の広告に応募したのがきっかけで映画業界に入った。当初は低予算のB級映画ばかりだったが、『ジョー』(1970年)や『セイブ・ザ・タイガー』(1973年)で注目される。そして『ロッキー』が世界的に大ヒット、一流監督として不動の地位を築いた。シリーズ第5作完結編「ロッキー5」も担当した。
★主演男優賞:ピーター・フィンチネットワーク
シドニー・ルメット監督作。コングロマリットに買収されたTV会社。視聴率がとれないニュースキャスター(ピーター・フィンチ)が降板させられる寸前に「自殺する」と生放送で爆弾発言したことから俄に視聴率があがり、それを巡って「視聴率の鬼」の女企画部長(フェイ・ダナウェイ)、リストラ寸前の報道局長(ウィリアム・ホールデン)、買収されてしまったTV局の社長、コングロマリットの会長(ネッド・ビーティ)等、それぞれの思惑がうずまく。百鬼夜行のテレビ業界を描くシリアスドラマ。ピーター・フィンチはイギリス出身の俳優。ロンドンで生まれたがインド・フランス、それと両親の出身地であるオーストラリアで育つ。受賞の翌1977年、61歳で亡くなっている。他に、フレッド・ジンネマン監督、オードリー・ヘップバーン主演「尼僧物語」、マイケル・パウエル監督の海戦スペクタクル「戦艦シュペー号の最後」、ミハイル・カラトーゾフ監督、ショーン・コネリー, クラウディア・カルディナーレ主演の実際に起きた遭難事故「イタリア号事件」を題材にしたパニック・アドベンチャー「レッド・テント」、ウィリアム・ディターレ監督、エリザベス・テイラー共演のエキゾチックな冒険映画「巨象の道」がある
★主演女優賞:フェイ・ダナウェイネットワーク
※フェイ・ダナウェイは視聴率競争に取りつかれ、成功するためにはいくらでも冷酷になれる気迫のこもったプロデューサーを演じた。他に、アーサー・ペン監督「俺たちに明日はない」、ロマン・ポランスキー監督「チャイナタウン」、ジョン・ギラーミン監督「タワーリング・インフェルノ」、フランコ・ゼフィレッリ監督「チャンプ」、アーサー・ペン監督、ダスティン・ホフマン主演「小さな巨人」、ヴィットリオ・デ・シーカ監督、マルチェロ・マストロヤンニ共演「恋人たちの場所」、シドニー・ポラック監督、ロバート・レッドフォード主演「コンドル」、ジュノー・シュウォーク監督、ヘレン・スレイターがスーパーマンのいとこを演じたアクションSF「スーパーガール」、ケビン・スペイシー初監督作のクライム・サスペンス「アルビノ・アリゲーター」、リュック・ベッソン監督、ミラ・ジョヴォヴィッチ出演「ジャンヌ・ダルク」、マイケル・クリストファー監督、アンジェリーナ・ジョリー主演「ジア 裸のスーパーモデル」がある。
★助演男優賞:ジェーソン・ロバーズ大統領の陰謀
アラン・J・パクラ監督。ウォーターゲート事件を追求し、ニクソン大統領を失脚させたワシントン・ポスト紙の2人の記者、カール・バーンスタイン(ダスティン・ホフマン)とボブ・ウッドワード(ロバート・レッドフォード)の行動を通して、事件の全貌を描く。ジェーソン・ロバーツはワシントン・ポスト紙の主幹ブラッドリーを演じた。
★助演女優賞:ビアトリス・ストレート「ネットワーク」
※ビアトリス・ストレートの他の出演作は、フレッド・ジンネマン監督、オードリー・ヘップバーン主演「尼僧物語」、トビー・フーパー監督「ポルターガイスト」がある。

ベネチア映画祭
※開催中止

カンヌ映画祭
★パルムドール:タクシードライバー 監督:マーティン・スコセッシ
※ニューヨークでタクシードライバーとして働くベトナム帰還兵のトラビス(ロバート・デ・ニーロ)はうっ屈した生活を送っていたが、14歳の売春婦アイリス(ジョディ・フォスター)との出会いなどをきっかけに自分の存在を世間に認めさせようと過激な行動に走り始める。監督のマーティン・スコセッシは、1942年11月17日、ニューヨーク市クイーンズにイタリア移民の子として生まれる。ニューヨーク大学卒業。本作の主演も当初、ジェフ・ブリッジスが有力だったが、スコセッシ監督の要望で前作「ミーン・ストリート」で好演したロバート・デ・ニーロに変更された。他のスコセッシ&デ・ニーロの作品は、「レイジング・ブル」、「グッドフェローズ」、「キング・オブ・コメディ」、「ニューヨーク、ニューヨーク」、「ケープ・フィアー」、「カジノ」などがある。また、アーウィン・ウィンクラー監督のハリウッド赤狩りをテーマにした問題作「真実の瞬間」では共演を果たした。
★監督賞:エットーレ・スコラ「恐ろしく、汚く、意地悪く」
※エットーレ・スコラは、1931年5月10日生まれのイタリア人監督。他に、もうひとつの 「ニュー・シネマ・パラダイス」といわれるマルチェロ・マストロヤンニ、マッシモ・トロイージ、マリナ・ヴラディ主演「スプレンドール」、出兵する息子と老父の心の絆を描いたマルチェロ・マストロヤンニ、マッシモ・トロイージ主演「BARに灯ともる頃」、ローマのリストランテ「アルトゥーロの店」の開店から閉店までに起こる様々なエピソードと人間模様を温かさとユーモアを交えた視点で描いたファニー・アルダン主演
星降る夜のリストランテ」などがある。
★主演男優賞:ホス・ルイス・ゴメス「Pascual Duatte」
★主演女優賞:
マリア・トリシク「デリ夫人あなたは誰ですか」
ドミニク・サンダ沈黙の官能」。原題は「フェッラモンティ家の遺産」監督:マウロ・ボロニーニ
※イレーネ(ドミニク・サンダ)は金持ちに憧れ、大富豪フェラモンティ家の次男と結婚するがそれだけでは満足できず、長男そして義理の父親までもその美貌で虜にし、財産を狙う。ドミニク・サンダは、1948年3月11日パリ生まれ。モデルをしていたが、1968年、ロベール・ブレッソン監督の『やさしい女』でデビュー。『暗殺の森』や『1900年』など、ベルナルド・ベルトルッチ作品で有名。本作出演当時のドミニク・サンダは25歳で、美しさの頂点にあった。
★審査員特別賞:
カラスの飼育 監督:カルロス・サウラ
※両親を失い、叔母の家に引き取られたアナ(アナ・トレント)は、ある夜母(ジェラルディン・チャップリン)の幻影と対話し、思い出と空想と現実の間をさ迷い始める。タイトルの「カラスの飼育」はスペインのことわざで、カラスをいくら可愛がって育てても、目玉をくり抜かれる様な仕打ちを受けるという、「飼い犬に手をかまれる」と似た意味。
O嬢の物語 監督:ジュスト・ジャカン
★国際批評家賞:
さすらい 監督:ヴィム・ヴェンダース
※ヴィム・ヴェンダース監督の「都会のアリス」と「まわり道」に続くロード・ムービー3部作の集大成である最終作。映写機の出張修理をして回り、トラックで寝起きする映写技師ブルーノ(リュディガー・フォーグラー)。猛スピードで車を海に突っ込ませた"カミカゼ"こと言語学者ランダー(ハンス・ツィシュラー)。ふたりがふと出会い、一緒にさすらいの旅を続ける。シナリオを持たず、即興で作られた。映画館の観客役でヴィム・ヴェンダースも出演。ヴェンダース監督の他の作品には。「パリ、テキサス」、「ベルリン・天使の詩」、「ブエナ☆ビスタ☆ソシアル☆クラブ」、「アメリカの友人」、「緋文字」、「ハメット」、「ミリオンダラー・ホテル」などがある。
☆Ferdinand Der(独)
☆Starke(独)

★この年の主要な作品
キングコング 監督:ジョン・ギラーミン
※特撮映画の名作「キング・コング」を、43年ぶりにリメイク。ジェシカ・ラング、ジェフ・ブリッジスほか出演。2005年には、「ロード・オブ・ザ・リング 」のピーター・ジャクソン監督がナオミ・ワッツ主演で「キング・コング」としてリメイクした。
ラスト・シューティスト 監督:ドン・シーゲル
※ドン・シーゲルが監督、末期ガンを告知された老ガンマン・ブックス(ジョン・ウェイン)は夫人と最期の日々を過ごそうとするが、町中に知れ渡り、彼はガンマンとして撃ち合いの果てに死ぬことを決意する。共演はローレン・バコール、ジェームズ・スチュワート、ロン・ハワードほか。この3年後、ジョン・ウェインは全身に転移したガンによって亡くなった。そして、墓銘碑には「彼は醜く、強く、誇り高い男だった」という自作の一文が刻まれた。
がんばれ! ベアーズ 監督:マイケル・リッチー
※元マイナーリーグ投手で今はアル中のモリス(ウォルター・マッソー)は少年野球チーム・ベアーズのコーチを依頼された。いつも負けてばかりのチームにうんざりのモリスだったが、チーム解散の決定を聞いて逆に発奮。かつての恋人の娘アマンダ(ティタム・オニール)や不良少年ケリー(ジャッキー・アール・ヘイリー)を助っ人に、チームの立て直しを図る。
ニッケルオデオン 監督:ピーター・ボグダノヴィッチ
※アメリカの映画草創期に生きた人間たちの映画に託した夢と人生を描く。出演は、ライアン&テータム・オニール父娘、バート・レイノルズほか。「ニッケルオデオン」とは、1903年から始まったニッケル貨(5セント)1枚で1,2分の映画を十数本まとめて見せる映画館。
キャリー 監督:ブライアン・デ・パルマ
※スティーヴン・キング原作。学校ではいじめられ、家では狂信的母親にののしられる日々を過ごす少女キャリー(シシー・スペイセク)は、遅い初潮を機に超能力に目覚める。一方、そんな彼女をプロム・パーティで励まそうとする友人(エイミー・アーヴィング)の優しい思惑は、心ない悪ガキ(ジョン・トラボルタ)どもの魔手により、やがて壮絶極まりない惨劇の扉を開ける。スローモーションや分割画面を駆使したクライマックスのすさまじさは今も語り種。
オーメン 監督:リチャード・ドナー
※駐英アメリカ大使のソーン夫妻(グレゴリー・ペック、リー・レミック)が自分たちの死んだ子と同じ6月6日、午前6時に同じ産院で生まれた男の子を養子にもらった。その子ダミアンが5歳の誕生日を迎えてから、次々と不吉な事件が勃発する。「エクソシスト」と並ぶアメリカ・オカルトホラー映画の傑作。
ウディ・ガスリー わが心のふるさと 監督:ハル・アシュビー
※アメリカが大不況に陥っていた1930年代、ヒッチハイクや貨物列車のただ乗りで旅を続ける歌手ウディ・ガスリー(デヴィッド・キャラダイン)は、ラジオ出演したことから人気を高めていくが、やがて布教の現実を目の当たりにして社会意識に目覚めていく。ボブ・ディランジョーン・バエズらに多大な影響を与えた実在のプロテストソング・シンガー、「フォークの神様」ウディ・ガスリーの半生を描いた音楽伝記映画の秀作。
愛のコリーダ 監督:大島渚
※昭和の猟奇事件として名高い阿部定事件を究極の愛の形とみなし、フランス資本で製作。カンヌ映画祭監督週間に出品され、「一流監督が作った世界初のハード・コアの秀作」と絶賛された。主演は、松田英子藤竜也

1970年代

1975年の映画(DVD)

1975年
アカデミー賞
★作品賞:カッコーの巣の上で(ミロス・フォアマン)
※原作はケン・キージーの『カッコーの巣の上で』。オレゴン州の精神病院に、型破りな男マクマーフィー(ジャック・ニコルソン)が送られてきた。仮病を使って刑務所を抜けだしたのだ。マクマーフィーはなにかにつけて規律を乱し、ラチェッド婦長(ルイーズ・フレッチャー)ら病院側と対立する。そしてついにマクマーフィーは患者を扇動した。アカデミー賞主要5部門を独占した名作。マクマーフィーの親友チーフにはウィル・サンプソンが、ほかダニー・デビート、クリストファー・ロイドなど。
★監督賞:ミロス・フォアマン「カッコーの巣の上で」
※チェコスロヴァキア出身。両親はアウシュヴィッツで亡くなったという。プラハの映画学校で学びチェコで映画作りをしていたが、チェコ事件を機にアメリカにわたり、1975年にアメリカの市民権を取得した。1984年に「アマデウス」でもオスカーを獲った。
★主演男優賞:ジャック・ニコルソン「カッコーの巣の上で」
※ジャック・ニコルソンの演技は、「他のハリウッドスターがアマチュアに見える」と賞賛された。
★主演女優賞:ルイーズ・フレッチャー「カッコーの巣の上で」
※ことごとくマクマーフィーと敵対するラチェッド婦長役。殺してしまいたいほど憎らしいと言われた名演だった。
★助演男優賞:ジョージ・バーンズ「ニール・サイモンのサンシャイン・ボーイズ」
※ジョージ・バーンズの他の出演作は、アルフレッド・ヒッチコック監督「白い恐怖」、レオ・マッケリー監督「聖メリーの鐘」などがある。
★助演女優賞:リー・グラントシャンプー
※ハル・アシュビー監督。ビバリーヒルズの美容院に勤める美容師のジョージ(ウォーレン・ベイティ)は、もてすぎて身が持たないほどのプレイボーイ。そんな彼が、自分の店を持つべく愛人のひとりフェリシア夫人(リー・グラント)の夫レスター(ジャック・ウォーデン)に資金協力を申し出るが、そこで彼はかつての恋人ジャッキー(ジュリー・クリスティ)と再会。彼女は今、レスターの愛人でもあった。主人公の恋人役にゴールディ・ホーン。リー・グラントは有閑マダムをひょうひょうと演じた。

ベネチア映画祭
※開催中止

カンヌ映画祭
★パルムドール:小さな火の歴史(モハメド・ラクダール・ハミナ)
★監督賞:ミッシェル・ブロー「公の秩序」
★主演男優賞:ビットリオ・ガスマン「女の香り」
※ビットリオ・ガスマンの他の出演作は、キング・ビダー監督、オードリー・ヘプバーン, ヘンリー・フォンダ主演の「戦争と平和」、「ソドムとゴモラ」、バート・レイノルズ製作、監督、主演の「シャーキーズ マシーン」などがある。
★主演女優賞:バレリー・ペリンレニー・ブルース
※ボブ・フォッシー監督。自らの生い立ち(ユダヤ人)や人種差別を過激な笑いに変えていくレニー・ブルース(ダスティン・ホフマン)は、妻との離婚を契機に麻薬に溺れるようになり、やがてその名声を失っていく。(バレリー・ペリン)はストリッパーだったレニーの妻ハニー・ハーロウを熱演した。
★審査員特別賞:カスパー・ハウザーの謎(独)監督:ヴェルナー・ヘルツォーク
※17歳になるまで地下牢に繋がれ、人間の存在すら知らなかったカスパー・ハウザーが、文明社会に解き放たれ人々の好奇の視線にさらされる。実在した謎の人物カスパー・ハウザーの視線を通して、現代の人間の醜悪さ、残酷さを描いた異色作。出演はブルーノ・S, ヴァルター・ラーデンガスト
★国際批評家賞:
旅芸人の記録(ギリシャ)監督:テオ・アンゲロプロス
※1939年から1952年、旅芸人一座の巡業の日々を通して、圧政、戦争、占領、叛乱、ギリシャが生きた現代史を描いた叙事詩。全編をワンシーン・ワンカットの連続で貫き、圧倒的な映像美で世界に衝撃を与えた。軍事政権下、4年の歳月をかけて製作されたアンゲロプロス執念の映画。
☆ガスパー・ハウザーの謎(独)

★この年の主要な作品
狼たちの午後 監督:シドニー・ルメット
※72年8月22日、ニューヨーク。ブルックリンの銀行に、ソニー(アル・パチーノ)とサル(ジョン・カザール)、そしてロビーの3人組が強盗に入る。ロビーが怖気づいて逃げだしたところへ、警察から電話がかかる。「包囲した。投降しろ」。ソニーとサルの2人は9人の銀行員を人質に立てこもる。うだるようなニューヨークの暑さが伝わる迫真のロケが見事。他にペニー・アレン、サリー・ボイヤー、キャロル・ケイン、ジェームズ・ブロデリック、チャールズ・ダーニング。
バリー・リンドン 監督:スタンリー・キューブリック
※18世紀ヨーロッパの成り上がり貴族バリー・リンドン(ライアン・オニール)の恋と野心、決闘と詐欺の半生を、徹底したリアリズムで描いた大河ドラマ。時代考証はもちろん、ライティング、美術、衣装に至るまで、完璧主義者キューブリックは見事に18世紀を再現。又、この時代のムードを忠実に再現するため、ロウソクの光だけで撮影出来るレンズを求めてNASAのために開発されたレンズを探し出しこの映画のために使用した。他の出演者は、レディー・リンドンにマリサ・ベレンソン、スパイ嫌疑をかけられていたギャンブラーのシュヴァリエ・ド・バリバリにパトリック・マギー、バリーを脱走兵と見抜くプロイセンの将校ポツドルフ大尉にハーディ・クリューガー
ジョーズ 監督:スティーブン・スピルバーグ
※アミティビルで、サメに襲われた女性の死体があがった。保安官ブロディ(ロイ・シャイダー)や海洋学者(リチャード・ドレイファス)は海水浴場の閉鎖を進言するが、そこが市の収入源であるため、市長は耳を貸さない。悲劇はさらに起こり、ブロディたちは漁師クイント(ロバート・ショウ)の船でサメ退治に向かう。スピルバーグが、弱冠27歳にして作りあげ、それまでの興行成績を大幅に塗り替えたメガヒット作。
デルス・ウザーラ 監督:黒澤明
※20世紀の初頭に、シベリアと中国・東北地方の国境地帯の地図を作成した帝政ロシア時代の探検家アルセーニエフ(ユーリー・サローミン)と、彼のガイドを務めた老猟師デルス・ウザーラ(マキシム・ムンズク)の終生変わることのなかった厚い友情を、黒澤明監督が広大なシベリアの大地を背景に描いた大作。
ロッキー・ホラー・ショー 監督:ジム・シャーマン
※ブラッド(バリー・ボストウィック)とジャネット(スーザン・サランドン)のカップルは、婚約したことを恩師に報告すべく郊外へ車を走らせるが、途中雷雨で道に迷い、フランクン・フルター博士(ティム・カリー)の古城へとたどりつく。しかし、そこではモンスターのごとき面々によるパーティの真っ最中であった。1973年にロンドンで初演され大ヒットしたR・オブライエンの原作・作詞・作曲によるロック・ミュージカルの映画化。
トミー  監督:ケン・ラッセル
※ノラ(アン・マーグレット)は結婚して幸せに過ごしていたが、夫は第二次世界大戦で戦死する。ノラは戦争後に男の子トミー(ロジャー・ダルトリー)を産む。やがてノラはキャンプ場のオーナーフランク(オリバー・リード)と付き合う。だが戦死したと思っていたトミーの父親が二人の前に現れた。フランクは勢い余ってトミーの父親を殺してしまい、トミーは偶然、殺人現場を目撃してしまう。トミーは精神的ショックから〔見えず 聞こえず 話せず〕の三重苦になる。1969年に発表され、ロック史上に「ロック・オペラ」という新たなコンセプトを確立した金字塔的アルバム、ザ・フーの「トミー」の映画化で、多くの評論家に「絵画、オペラ、音楽、演劇などいかなる芸術でも到底追いつかない、20世紀最高の芸術」と言わしめた歴史的傑作。他に、ピンボールの魔術師にエルトン・ジョン、伝道師にエリック・クラプトン、麻薬の女王にティナ・ターナー、専門医にジャック・ニコルソン、アーニー(叔父)にキース・ムーンが出演している。
グレートハンティング 監督:アントニオ・クリマーティ
※全ての歴史を、狩るものと狩られるものの闘争の歴史と捉えた残酷ドキュメンタリー。人間がライオンに襲われるシーンを始め、人間狩りの一部始終などショッキングなシーンが全篇にわたって収められている。「やらせ」かどうかはご自分の目で確かめて下さい。・
続エマニエル夫人 監督:フランシス・ジャコペッティ
※シリーズ第2弾。前作で性の喜びに目覚めたエマニエル夫人(シルヴィア・クリステル)が、舞台を香港とバリに移しその妖艶な魅力で奔放なセックスに明け暮れ、清純な美少女アンナマリア(カトリーヌ・リヴェ)に官能の悦びを教えていく。前作より性描写がより直接的で過激になった。
O嬢の物語 監督:ジュスト・ジャカン
※O嬢(コリンヌ・クレリー)が恋人(ウド・キア)に連れてこられた館で、男たちへの奉仕を強要された。ポアリーヌ・レアージュ原作の官能小説「O嬢の物語」を、「エマニエル夫人」のジュスト・ジャカン監督が映画化した。
風とライオン 監督:ジョン・ミリアス
※1904年、列強の陰謀渦巻くモロッコのタンジールで、アメリカ人女性イーデン(キャンディス・バーゲン)とその子供達が誘拐された。首謀者のリフ族首長ライズリ(ショーン・コネリー)はルーズベルト大統領(ブライアン・キース)にリフ族の領土の承認とモロッコの実権を握る知事の首を要求。選挙を目前に控えていたルーズベルトは夫人奪還のために大西洋艦隊を派遣。ここに一度も会ったことのない男同士の戦いが始まった。
ミッドウェイ  監督:ジャック・スマイト
※真珠湾奇襲に成功した日本海軍は、翌1942年6月、ミッドウェイ攻略を計画し、山本五十六(三船敏郎)率いる連合艦隊は再び太平洋へ向かう。しかし、米軍は日本軍の暗号を解読し、これを迎え撃つ。その中には、息子がハワイの日本人と相思相愛になっていることに苦悩しているガース大佐(チャールトン・ヘストン)の姿もあった。南雲長官役は『ダイ・ハード』でナカトミ社長役を演じたジェームズ繁田。アメリカ建国200周年記念映画。

1970年代

1974年の映画(DVD)

1974年の映画(DVD)

アカデミー賞

★作品賞:「ゴッドファーザー PART II」監督:フランシス・F・コッポラ
※亡き父の後を継ぎファミリーのドンとなったマイケル(アル・パチーノ)は、堅気の家業に乗り出すが、彼の意向とは裏腹に再び血で血を洗う抗争が勃発する。若き日のドン(ロバート・デ・ニーロ)と現在のその息子マイケルという、2つのストーリーをフラッシュバックさせ、作品に厚みを与えた。他に、ロバート・デュバル、ダイアン・キートン、ジョン・カザール。

★監督賞:フランシス・F・コッポラ「ゴッドファーザーPARTU」
※「昔から続編というやつは2匹目のドジョウを狙って作られ、だいたい前作より安っぽいまがいものになる、という考え方がある。私はそうした観念を叩き潰したかった。」というコッポラの意思どうり前作を凌ぐ傑作と評価された。

★主演男優賞:アート・カーニーハリーとトント
※老人ハリー(アート・カーニー)と老猫トントが兄を見舞うためアメリカを横断するポール・マザースキー監督のロード・ムービー。

★主演女優賞:エレン・バーンスティンアリスの恋」監督:マーティン・スコセッシ
※歌手を目指しながら、今は平凡な主婦になっているアリス(エレン・バースティン)は、夫を交通事故で亡くし、ひとり息子のトムを連れて故郷のモンタレーへ帰ることになり、オンボロ車で旅立つ。エレン・バーンステインの飾りのない自然な演技は見事。

★助演男優賞:ロバート・デ・ニーロ「ゴッドファーザーPARTU」
※コッポラ監督は、若かりし頃のドン・コルレオーネ役として、当時無名のロバート・デ・ニーロを抜擢。彼の出世作にして、マーロン・ブランドにも迫る神がかり的な演技を見せた。

★助演女優賞:イングリッド・バーグマンオリエント急行殺人事件」監督:シドニー・ルメット
アガサ・クリスティ原作の映画化作品のなかでも、本作は上質な仕上がりとして名高い。何と言っても異例なまでのオールスターキャストが作品のグレードをアップさせている。ポアロのアルバート・フィニー, ローレン・バコール,ジャクリーン・ビセット、ショーン・コネリーから、本作でオスカー受賞のイングリッド・バーグマン、さらにデームの称号を持つウェンディ・ヒラーまで、全キャストのミステリアスな演技は特筆に値する。大雪で動けなくなったオリエント急行内での密室殺人は、どの乗客も怪しく感じさせてくれる。


ベネチア映画祭
※開催中止


カンヌ映画祭

★パルムドール:「カンバセーション…盗聴…」監督:フランシス・F・コッポラ
※舞台はサンフランシスコ。盗聴のプロ(ジーン・ハックマン)が、仕事で不倫カップルの会話を盗み聴いたところ、そのテープには「殺されるかもしれない」との声が入っていた。やがて依頼主がふたりを殺そうとしていることを悟る。コッポラが意欲的な作劇法で演出したプライベートフィルムに近い形のサスペンスドラマ。コッポラの代表作とするファンも多い。

★主演男優賞:ジャック・ニコルソンさらば冬のかもめ」監督:ハル・アシュビー
※基地の募金箱から40ドルを盗んだ罪で8年の実刑が決まった若い水兵を海軍将校2人が休暇気分で護送することになる。3人はやがて奇妙な連帯感で結ばれていく。アメリカン・ニューシネマ後期の傑作。共演にランディ・クエイド

★主演女優賞:マリー・ジョゼ・ナット「Les Violons du Bal」

★審査員特別賞:アラビアンナイト(伊)
※ヌル・エド・ディンは、女奴隷ズルムードを買い、ふたりで幸福な生活を送っていた。しかし、ズルムードは青い目の男バルムスに奪われてしまう。ヌル・エド・ディンのズルムード捜しの旅のほかに、『アラビアンナイト』の挿話がつづられる。ピエル・パオロ・パゾリーニが「デカメロン」「カンタベリー物語」に続いて監督した艶笑三部作、あるいは生の三部作の第三作目。出演はニネット・ダヴォリ, フランコ・チッティ

★国際批評家賞:
☆angst Essen Seele auf(独)
☆Lancelot Du Lac(仏)


★この年の主要な作品

◆「タワーリング・インフェルノ」 監督:ジョン・ギラーミン
※サンフランシスコに建てられた、地上138階という世界一の超高層ビル「グラス・タワー」。その落成式当日に火災が発生。またたく間にビルは燃えあがりパニックになる。とり残された人々を救うため、ビル設計者(ポール・ニューマン)や消防隊長(スティーブ・マックィーン)らは大胆な救出作戦を実行に移した。他にフェイ・ダナウェイ、ウィリアム・ホールデン、フレッド・アステア「ゴールデングローブ賞助演男優賞)、ジェニファー・ジョーンズ、ロバート・ボーン、ロバート・ワグナーらが出演したあらゆる面でスケールの大きい作品。

◆「華麗なるギャツビー」 監督:ジャック・クレイトン
※脚本:フランシス・フォード・コッポラ。ニューヨーク郊外のウェスト・エッグに越してきた青年ニック(サム・ウォーターストン)。対岸のイースト・エッグには彼の従妹デイジー(ミア・ファロー)が夫のトム(ブルース・ダーン)と住んでおり、ニックはデイジーから隣に住む豪邸の主人、ギャツビー(ロバート・レッドフォード)の噂を耳にする。ギャツビーは夜毎にパーティーを催すが、決して自分はパーティーに参加しないミステリアスな存在だった。20年代ニューヨークの上流社交界を舞台に、富と名声を手に入れたひとりの男の知られざる過去と悲恋を描く。カレン・ブラックがトムの情婦マートル役でゴールデングローブ賞助演女優賞。

◆「チャイナタウン」 監督:ロマン・ポランスキー
※37年のロサンゼルス。私立探偵のジェイク(ジャック・ニコルソン)は、建築技師の妻・モーレイ夫人と名乗る女から浮気調査を依頼される。しかし本物のモウレー夫人イヴリン(フェイ・ダナウェイ)が、新聞に掲載された写真を見てジェイクの前に現れる。直後、技師モーリーの溺死体が上がった。調査を始めたギテスは、事件の裏にモーリー夫人の実父で政界の黒幕クロス(ジョン・ヒューストン)の存在を見出す。伏線に次ぐ伏線を散りばめた傑作探偵サスペンス。

◆「ヤング・フランケンシュタイン」 監督:メル・ブルックス
※ボルティモアの脳外科医フレデリック(ジーン・ワイルダー)は、曾祖父フランケンシュタイン博士の遺産を継ぐため、トランシルヴァニアの古城へと赴いた。その地下室で彼は、曾祖父の記した実験ノートを頼りにモンスター(ピーター・ボイル)を誕生させてしまう。しかし、そのとき用いた脳みそが、とんでもないアブノーマルなものだった。当時の雰囲気を出す為に、ユニヴァーサルの旧作のセットを使ってモノクロで撮影され、ギョロ目のマーティ・フェルドマンやコケティッシュなテリー・ガー、ピーター・ボイル、マデリーン・カーン、そしてジーン・ハックマンなど脇役たちの怪演も相まってまさに超一級のエンタテインメント映画に仕上がっている。

◆「ガルシアの首」 監督:サム・ペキンパー
※メキシコの大地主が、娘を妊娠させたガルシアという男の首に賞金をかけた。酒場のピアノ弾きのベニー(ウォーレン・オーツ)は、ガルシアが既に死んでいることを知り、墓場からその首を持ち出すが、金目当ての男は彼一人ではなかった。圧倒的な暴力描写で世界中にコアファンを持つサム・ペキンパー監督渾身の一作。ヴァイオレンス・アクション映画の傑作だ。

◆「悪魔のいけにえ」 監督:トビー・フーパー
※米国テキサス州に帰郷した5人の男女が、人皮によって創られた仮面を被った大男「レザーフェイス」により殺害されていく様子を捉えたホラー作品。1957年にウィスコンシン州プレインフィールドで実際に発生したエド・ゲインによる猟奇殺人事件をモデルにしている。

◆「エマニエル夫人」 監督:ジュスト・ジャカン
※20歳の若妻エマニエル(シルヴィア・クリステル)は、夫の赴任先であるタイで様々な性体験に身を委ねる。性の哲学者とも言うべきマリオ老人と出会ったエマニエルは、さらなるアバンチュールを重ね、やがて成熟した大人の女性へと変貌していく。ポルノ映画でありながら多くの女性客を集めて社会現象となったフランス映画。

◆「家族の肖像」 監督:ルキーノ・ヴィスコンティ
※ローマの豪邸で隠遁生活を送る老教授(バート・ランカスター)。しかし強引なビアンカ夫人(シルヴァーナ・マンガーノ)の差し金で、二階の部屋を彼女の若い愛人コンラッド(ヘルムート・バーガー)に貸すハメになる。やがて同居人の数も増え、お互いがお互いをののしる中、教授の静かな日常は完全に破壊されてしまう。ヴィスコンティ監督が、自らの死を予見しながら描いたとも思しき自画像的傑作。

1970年代

1973年の映画(DVD)

1973年の映画(DVD)

アカデミー賞

★作品賞:「スティング」監督:ジョージ・ロイ・ヒル
※仲間を殺したギャングの大ボス(ロバート・ショウ)から大金を巻き上げようとする詐欺フッカー(ロバート・レッドフォード)と彼に協力する伝説の詐欺師ゴンドーフ(ポール・ニューマン)の策略。そして、ラストの大ドンデン返し。スコット・ジョプリンのラグタイムピアノが、30年代ムードを盛りあげる。

★監督賞:ジョージ・ロイ・ヒルスティング
※詐欺師の手法をフィールドワークで集めたアメリカの言語学者デヴィッド・W・モラーの著作「詐欺師入門―騙しの天才たち その華麗なる手口」に基づき ポール・ニューマン, ロバート・レッドフォード他の出演で製作してアカデミー賞7部門受賞した。

★主演男優賞:ジャック・レモンセイブ・ザ・タイガー
※監督:ジョン・G・アヴィルドセン。ベトナム戦争から帰還後に興した服飾会社の資金繰りに悩むハリー(ジャック・レモン)は、毎朝目覚める度に憂鬱な気持ちだった。そんな彼に追い討ちを掛けるようにトラブルが発生する。そして保険金詐欺の誘惑。タイトルの「セイブ・ザ・タイガー」とは劇中に一瞬出てくる、絶滅寸前のベンガル虎救済の募金活動のこと。なおアヴィルドセン監督は「ロッキー」で1976年、アカデミー賞監督賞を受賞する。

★主演女優賞:グレンダ・ジャクソン「ウィークエンド・ラブ」
※アカデミー賞の歴史で、外国人(グレンダ・ジャクソンはイギリス人)が外国映画で主演賞を二回受賞(1970年「恋する女たち」)した人は、今のところグレンダ・ジャクソン一人だけである。
グレンダ・ジャクソンの他の出演作には、「ケン・ラッセルのサロメ」、ロバート・アルトマン監督「ニューヨーカーの青い鳥」、ロドリック・グラハム監督「エリザベスR」、「「マルキ・ド・サドの演出のもとにシャラントン精神病院患者たちによって演じられたジャン=ポール・マラーの迫害と暗殺」、「ボーイフレンド」、「恋人たちの曲/悲愴」がある。

★助演男優賞:ジョン・ハウスマン「ペーパー・チェイス」
※監督・脚本:ジェームズ・ブリッジス。ハーバート大学を舞台に、エリート・コースを邁進する学生が身を持って体験する試験地獄と愛を描く。他の出演者は、ティモシー・ボトムズジョニーは戦場へ行った)、リンゼイ・ワグナー(みにくいアヒルの子)
ジョン・ハウスマンの他の出演作には、「ローラーボール」、「セント・アイブス」、「私の中のもうひとりの私」、「ザ・ファーム 法律事務所」などがある。

★助演女優賞:テイタム・オニールペーパー・ムーン
※監督:ピーター・ボグダノヴィッチ。聖書を売りつける詐欺師の男(ライアン・オニール)と、母親を交通事故で亡くした9歳の少女(テイタム・オニール)との、互いの絆を深めていく様を描いたロード・ムービー。あえて白黒で撮影したノスタルジックな映像が生きる。


ベネチア映画祭
※開催中止


カンヌ映画祭

★パルムドール:
☆「スケアクロウ」監督:ジェリー・シャッツバーグ
※刑期を終えたマックス(ジーン・ハックマン)は、故郷のピッツバーグでカー・ウォッシュの開業を目論む。一方、元船員・ライオン(アル・パチーノ)は5年前に妊娠中の妻を残してきたデトロイトに帰る途中だった。カリフォルニアのハイウェイで知り合ったふたりは、徐々に心を通い始め、奇妙な道中を共にする。我が国でも70年代初頭の映画青年の胸を熱くした「スケアクロウ」だが、現在も、そのやるせない感動は健在だ。

☆「雇い人」監督:アラン・ブリッジス
※アラン・ブリッジス監督には「The Shooting Party」「逢いびき」等の作品がある。

★主演男優賞:ジャンカルロ・ジャンニーニ「愛とアナーキーの映画」
※ジャンカルロ・ジャンニーニの他の出演作は、 ルキノ・ヴィスコンティ監督、ラウラ・アントネッリ共演「イノセント」、パオロ・カヴァラ監督、ステファニア・サンドレッリ共演のエロスサスペンス「タランチュラ」、ディーノ・リージ 監督、ラウラ・アントネッリ共演「セッソ・マット」、ヴァレリオ・ズルリーニ監督、アラン・ドロン主演「高校教師」、アルフォンソ・アラウ監督、キアヌ・リーブス主演「雲の中で散歩」、スパニッシュ・ホラーの鬼才ジャウマ・バラゲロ監督によるミステリー・ホラー「ダークネス」等がある。

★主演女優賞:ジョアン・ウッドワード「まだらキンセンカにあらわれるガンマ線の影響」
※「まだらキンセンカにあらわれるガンマ線の影響」は、変わり者で自堕落な未亡人と自分の道を歩もうとする2人の10代の娘の日常を描いたジョアン・ウッドワードの夫であるポール・ニューマンの監督第3作。
※ジョアン・ウッドワードの他の出演作は、アカデミー賞主演女優賞を受賞したナナリー・ジョンソン監督「イブの三つの顔」、シドニー・ルメット監督、マーロン・ブランド共演「蛇皮の服を着た男」がある。

★審査員特別賞:「ママと娼婦」 監督:ジャン・ユスターシュ(仏)
※定職も人生の目標もない上、女にもだらしないアレクサンドル(ジャン=ピエール・レオ)は、ブティックを経営している年上の女マリー(ベルナデット・ラフォン)と同棲し、無為な日々を送っていた。ある日、彼はカフェで若いベロニカ(フランソワーズ・ルブラン)をナンパし、やがて3人の奇妙な共同生活が始まる。男に必要なのは恋人でも愛人でもなく、母親と娼婦であると言われるが、その言説をそのまま映画にしてしまったポスト・ヌーヴェルヴァーグ最大の傑作。

★国際批評家賞:
☆「最後の晩餐」 監督:マルコ・フェレーリ(仏/伊)
※パリの大邸宅にある共通の目的を持った4人の男たちが集う。美食通で知られる彼らは、昼夜を問わず酒池肉林の宴を繰り広げ始める。出演はフィリップ・サルド, アンドレア・フェレオル, マリオ・ヴァリピアーニ, ラファエル・アスコナ, フィリップ・ノワレ
マルコ・フェレーリ監督の他の作品には、 マルチェロ・マストロヤンニ, カトリーヌ・ドヌーヴ主演「ひきしお」、ロベルト・ベニーニ主演「マイ・ワンダフル・ライフ」、ベン・ギャザラ主演「ありきたりな狂気の物語」がある。

☆ママと娼婦(仏)


★この年の主要な作品

◆「アメリカン・グラフィティ」 監督:ジョージ・ルーカス
※ベトナム戦争勃発前の1962年、カリフォルニア北部の小さな田舎町を舞台に、ハイスクールを卒業し東部の大学へ出発する若者たちの、最後の一夜を描いた青春映画の傑作。ドライヴインに次々に集まるカスタム・カー。ローラースケートを履いてハンバーガーとコークを運ぶ女の子。ボリュームいっぱいに流れる『Rock Around The Crock』など1960年代の軽快な雰囲気が懐かしい。主演はリチャード・ドレイファスハリソン・フォードも出演している。

◆「エクソシスト」 監督:ウィリアム・フリードキン
※女優のクリス(エレン・バースティン)は、一人娘リーガン(リンダ・ブレア)の異変に気付く。日を追って激しくなるリーガンの異常な挙動は医者からも見放され、娘が悪霊に取り憑かれたと知ったクリスは、カラス神父(ジェイソン・ミラー)に悪魔払いを依頼する。悪魔払いの経験があるメリン神父(マックス・フォン・シドー)と共にカラス神父は悪魔に対決を挑む。これまでの恐怖映画とは一線を画す完成度の高い作品。他に、キンダーマン警部にリー・J・コッブ、ダイアー神父にウィリアム・オマリー

◆「追憶」 監督:シドニー・ボラック
※1937年、大学のキャンパスで政治活動に熱中するケイティ(バーブラ・ストライサンド)とノンポリのハベル(ロバート・レッドフォード)は出会い、互いの思想の相違を感じるが、戦争中にふたりは再会し、急速に愛し合うようになり結婚する。やがてハベルは映画脚本家となるが、50年代ハリウッド赤狩りの中、ケイティは反マッカーシズム運動を展開する一方、ハベルは己の創作に限界を感じ始める。ノスタルジー映画の代表作。ストライサンドが歌う主題歌「追憶」は、映画音楽のスタンダード・ナンバー。

◆「映画に愛をこめて アメリカの夜」 監督:フランソワ・トリュフォー
※映画撮影の日常をスケッチ風につづりながら、すべての映画を愛する人々に捧げられたフランソワ・トリュフォー監督(自身も映画監督役で出演)の名作。タイトルの「アメリカの夜」とは、レンズにフィルターをかけて昼間の撮影でも夜のシーンに見せてしまうこと。それは即ち虚構の象徴であり、またそれこそが映画の魅力でもある。主演のジャックリーン・ビセットはその美貌と、英仏語が話せる語学力で欧米を股にかけて活躍した70年代を代表する美人女優。

◆「愛の嵐」 監督:リリアーナ・カヴァーニ
※身元を隠してホテルで働く元ナチスの将校だったマックス(ダーク・ボガート)は、ある日収容所時代に弄んだ女性ルチア(シャーロット・ランプリング)と再会。ふたりは当時の想いを再び燃え上がらせる。ルチアがナチス将校のパーティで裸体にナチの制服をまとって歌い踊るシーンはあまりにも有名。

◆「燃えよドラゴン」 監督:ロバート・クローズ
※米と香港の合作で、世界を席巻したカンフー映画の傑作。ブルース・リーが麻薬密売の内情を暴くため、単身でハン(シー・キエン)の要塞島に乗り込む。カンフーが世界的なブームとなり、現在の格闘技ブームにも大きな影響を与えた記念碑的作品。「ラロ・シフリンのテーマ曲」もヒットした。

1970年代

1972年の映画(DVD)

1972年の映画(DVD)

アカデミー賞

★特別賞:チャールズ・チャップリン
 受賞理由は「映画への偉大な貢献」
※実に20年ぶりにハリウドを訪れ、受賞式場に現れたチャップリンは、万雷の拍手に迎えられ、ジャック・レモンからオスカーを受け取った。

★作品賞:「ゴッドファーザー」監督:フランシス・F・コッポラ
※47年、ニューヨークでマフィアの抗争が激化し、敵対するファミリーにドン・ヴィトー(マーロン・ブランド)を襲われたコルレオーネ・ファミリーでは、長男ソニー(ジェームズ・カーン)と三男マイケル(アル・パチーノ)の兄弟が戦いの中心となる。マリオ・プーゾのベストセラー小説の映画化で、フランシス・フォード・コッポラ監督の名を一躍有名にした傑作。静かなタッチのなかに展開する凄惨な抗争描写は以後のバイオレンス作品の手本となった。他にロバート・デュヴァル、ダイアン・キートン、ジョン・カザールら。コッポラ監督の妹タリア・シャイアがコニー・コルレオーネで、母イリアも電話交換手で出演。

★監督賞:ボブ・フォッシーキャバレー
※ナチスが台頭してきた頃のベルリンのキャバレーを舞台に様々な人間模様を描いたデカダン・ミュージカル映画の傑作。キャバレー歌手サリー(ライザ・ミネリ)の下宿に越してきたイギリス人青年ブライアン(マイケル・ヨーク)、ふたりの仲に介入していくバイセクシュアルの貴族(ヘルムート・グレーム)、そしてキャバレーの司会者(ジョエル・グレイ)。映画はやがてファシズムを支える要素が、政治への無関心そのものであることまで浮き彫りにしていく。アカデミー賞8部門制覇。

★主演男優賞:マーロン・ブランド「ゴッドファーザー」
マーロン・ブランドはトラブルメーカーで、その扱いにくさから「ゴッドファーザー」に出演するまでは落ち目の俳優と見られていた。しかし、圧倒的なカリスマ性と演技力を併せ持ち、今や現代映画界最高の俳優となったアル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロなどからも尊敬される戦後を代表する伝説的名優である。又、人種差別問題には早くから積極的に関わり、アパルトヘイトを扱った『白く乾いた季節』には4000ドル(反アパルトヘイト団体へ寄付)で、ネイティブアメリカンの問題をテーマにしたジョニー・デップ監督作『ブレイブ』には無償で出演している。

★主演女優賞:ライザ・ミネリ「キャバレー」
※偉大なエンターテイナーだった母のジュディ・ガーランドも手にできなかったアカデミー賞主演女優賞。授賞式でライザは「ママ、ありがとう」と言って大粒の涙を流した。

★助演男優賞:ジョエル・グレイ「キャバレー」
※ジョエル・グレイは舞台からそのまま映画に出演した。ヨーロッパのキャバレーは、日本のキャバレーとは全く別物で唄や踊りなど、芸人が芸を披露する酒場だ。ディートリッヒの「嘆きの天使」の酒場『嘆きの天使』もハンブルグのキャバレーだったが、出演していたピエロは、ジョエル・グレイそっくりだった。キャバレー文化はこの映画の時代である第二次大戦前夜、ベルリンで頂点を迎える。

★助演女優賞:アイリーン・ヘッカート「バタフライはフリー」


ベネチア映画祭
※公式受賞作品の選出なし


カンヌ映画祭

★パルムドール:
☆「黒い砂漠」監督:フランチェスコ・ロージ

☆「労働者階級は天国に入る」監督:エリオ・ペトリ

★監督賞:ヤンチャ・ミクローシャ「赤い詩編」

★主演男優賞:ジャン・ヤンヌ「われわれは一緒に年をとらない」

★主演女優賞:スザンナ・ヨークイメージズ
※原作はこの映画で主演し、精神を患った人妻を熱演したスザンナ・ヨークの『ユニコーンを探して』。脚本・監督がロバート・アルトマン
自分の夫が浮気していると謎の女からの執拗な電話を受けるキャシー(スザンナ・ヨーク)。事実無根だとする夫と共に田舎で静養を始めるが、現実とも幻覚ともつかない出来事に翻弄され、徐々に正気を失っていく。
アイルランドの美しい自然と、アルトマンのズーム撮影が煽る不安のアンバランスが見どころとなっている。音楽に日本の打楽器奏者ツトム・ヤマシタジョン・ウィリアムス

★審査員特別賞:「惑星ソラリス」(ソ連)
※旧ソ連の伝説的な映画監督、アンドレイ・タルコフスキースタニスラフ・レフの小説「ソラリスの陽のもとに」を映画化したスタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』(1968)と比肩されるSF映画の傑作。人間の潜在意識を実体化させる「海」がある惑星ソラリスに赴任した心理学者クリス(ドナタス・バニオニス)は亡妻ハリー(ナタリヤ・ボンダルチュク)の幻影に心を惑わせる。従来のSF映画をはるかに超えた感動的で奇異な記憶や故郷に対する幻想が描かれ、多くのファンを今なお魅了し続けているカルト的映画。なお、原作にはない未来都市のシーンは東京で撮影され、1972年夏、タルコフスキーはロケ撮影のため来日した。東洋哲学わけても日本の中世思想に共感を示したタルコフスキーだが、この来日が最初にして最後となった。

★国際批評家賞:Avoir 2Oans Dans Les Aures(仏)


★この年の主要な作品

◆「ラストタンゴ・イン・パリ」 監督:ベルナルド・ベルトルッチ
※冬のパリ。中年男のポール(マーロン・ブランド)は、アパートの空き部屋で偶然出会った若い娘ジャンヌ(マリア・シュナイダー)をいきなり犯す。だが2人は何事もなかったかのように別れる。ジャンヌには婚約者がいた。一方、ポールは妻が自殺したばかりで人生に絶望していた。2人はその後もアパートの空き部屋で会い続ける。大胆なセックスシーンで世界中にセンセーションを巻き起こし、イタリアでは上映禁止になった。後にベルトルッチ監督は、「マーロンとマリアはまことの大胆だった。いちばん内気だったのは私だった。」と語っている。

◆「ポセイドン・アドベンチャー」 監督:ロナルド・ニーム
※洋上で大晦日から元旦を迎えた豪華客船ポセイドン号が様々な人々の人生を乗せてアテネに向かっていた。その時海底地震が発生し、数分後船は大津波によって転覆。阿鼻叫喚の船内で、今や天井となった船底まで行けば安全であると唱える一行が、地獄の冒険を繰り広げる。次々と命を失う者が出る中、主人公スコット牧師(ジーン・ハックマン)が神の意義と人間の尊厳を問いかける。他にアーネスト・ボーグナイン、レッド・バトンズ、キャロル・リンレー、ロディ・マクドウォール、ステラ・スティーブンス、シェリー・ウィンタース、レスリー・ニールセン

◆「ゲッタウェイ」 監督:サム・ペキンパー
※銀行強盗のマッコイ(スティーブ・マックイーン)は仲違いからボスを殺し、組織から終われる。彼が妻(アリ・マッグロー)とともにメキシコに向かって逃げるが…。

◆「バラキ」 監督:テレンス・ヤング
※ マフィアの準幹部ジョゼフ・バラキ(チャールズ・ブロンソン)は、組織に欺かれて殺されかけたことから、FBIに組織の内情をぶちまけはじめる。そして彼は、いかにニューヨーク5大ファミリーの抗争劇に関わっていったのか。影の政府と呼ばれる巨大組織、マフィアの世界をドキュメンタリータッチで描いた作品。

◆「候補者ビル・マッケイ」 監督:マイケル・リッチー
※カリフォルニア州の上院議員に立候補した若き弁護士ビル・マッケイ(ロバート・レッドフォード」は、選挙運動の裏側を知り、抱いていた理想とのギャップに悩まされるが、やがて選挙参謀の命ずるままに行動する、完全な操り人形になってしまう。他の出演者は、ピーター・ボイル、メルビン・ダグラス、ナタリー・ウッド、ドン・ポーター、カレン・カールソン。
アカデミーオリジナル脚本賞(ジェレミー・ラーナー)受賞。音響賞ノミネート。

◆「脱出」 監督:ジョン・ブアマン
※ダム建設で自然破壊が進むアメリカ、ジョージア州の渓谷にカヌーを楽しみに来た4人の都会人たちが遭遇する戦慄の物語。同じ年に公開された「ゴッドファーザー」、スタンリー・キューブリック監督の「時計じかけのオレンジ」、ドン・シーゲル監督の「ダーティハリー」、サム・ペキンパー監督「わらの犬」、ウィリアム・フリードキン監督の「フレンチ・コネクション」と並ぶヴァイオレンスをテーマにした映画史に残る傑作。

◆「ルードウィヒ 神々の黄昏」 監督:ルキノ・ヴィスコンティ
※19歳でバイエルン国王となったルードウィヒU世(ヘルムート・バーガー)は、ノイシュヴァンシュタイン城などの築城と作曲家ワーグナー(トレヴァー・ハワード)に心酔し、巨大な国費を注ぎ込んだ。彼が思いを寄せる従姉のオーストリア皇女エリザベート(ロミー・シュナイダー)は、妹ソフィーとの婚約を勧め彼も同意するが、エリザベートへの思いが絶ちがたく婚約は破棄される。1886年、オーストリアとの闘いに敗れ、ワグナーにも裏切られたルードウィヒは孤独のどん底に突き落とされていく。
地獄に堕ちた勇者ども」、「ベニスに死す」に続く、ビスコンティのドイツ三部を締めくくる作品。病に倒れながらも執念で撮り上げたビスコンティの気迫がみなぎっている。ワーグナーの妻コジマにシルヴァーナ・マンガーノ

◆「ミツバチのささやき」 監督:ビクトル・エリセ
※舞台は40年代、スペイン内戦後の小さな村に、希望と夢を乗せて1本の映画がやってきた。それは「フランケンシュタイン」。すっかり映画に魅せられた少女アナ(アナ・トレント)は、フランケンシュタインを探す冒険に出る。アナ・トレントの純真無垢で好奇心にあふれる瞳が印象的。映像詩人ビクトル・エリセの処女作。

◆「ブルジョワジーの密かな愉しみ」 監督:ルイス・ブニュエル
※登場人物のブルジョワたちが何としても食事にありつけないという着想だけで作り上げた空前絶後のブラックコメディー。登場人物が唐突に語り始める奇談が、オムニバス映画のように映画の途中に挿入しているのも既成概念に囚われないブニュエルらしい演出である。アカデミー賞外国語映画賞を受賞した。フェルナンド・レイ、デルフィーヌ・セイリグ、ステファーヌ・オードランほかの出演。

1970年代

1971年の映画(DVD)

1971年
アカデミー賞
★作品賞:フレンチ・コネクションウィリアム・フリードキン
※フレンチ・コネクションとはフランスとアメリカを結ぶ麻薬密輸ルート。マルセイユからニューヨークへ密輸される3200万ドルのヘロインをめぐって、NY市警の敏腕刑事ポパイことドイル刑事(ジーン・ハックマン)と相棒ラソー刑事(ロイ・シャイダー)が、国際麻薬シンジケートの黒幕を追い詰める!NY市警麻薬捜査課のイーガン刑事とグロッソ刑事という実在の刑事がモデルとなっている。
★監督賞:ウィリアム・フリードキン「フレンチ・コネクション」
※フリードキン監督が映画化を決意したのも、実際にイーガン刑事と会い、その魅力に惚れたからで、一年間イーガン刑事を追跡取材し、その取材に基づいて徹底的に彼の人間性を分析した。
★主演男優賞:ジーン・ハックマン「フレンチ・コネクション」
※イーガン刑事のお母さんがこの映画を観て言った。「なんだ、どうせ本物の刑事を使うなら、うちの息子を主役にして欲しかった。」
★主演女優賞:ジェーン・フォンダコールガール
アラン・J・パクラ監督。真夜中のニューヨークを舞台にした、孤独な捜査官と裏の世界に生きる女の姿を描き、アメリカの暗部を暴いた異色サスペンス。反戦運動の闘士であったジェーン・フォンダは当初アカデミー賞受賞を拒否するつもりだったが、友人に「同志達を勇気づけるためにも受賞すべきだ。」と説得された。
★助演男優賞:ベン・ジョンソンラスト・ショー
ピーター・ボグダノヴィッチ監督。1951年、テキサスの小さな町アナリーンには古びた小さな映画館「ロイヤル」があった。そこは若者たちがデートできる唯一の場所であり、ソニー(ティモシー・ボトムズ)やデュアン(ジェフ・ブリッジス)ら若者たちはカウボーイの生き残りでもある経営者サム(ベン・ジョンソン)を尊敬している。しかし、やがてサムが死に、ソニーは朝鮮戦争へ出兵する。
★助演女優賞:クロリス・リーチマン「ラスト・ショー」
※クロリス・リーチマンはソニーと関係を持つフットボールコーチの妻ルース。他の出演作には、 ジェームズ・L・ブルックス監督の「スパングリッシュ(2004年)」、テリー・ツワイゴフ監督の「バッドサンタ(2003年)」がある。

ベネチア映画祭
※公式受賞作品の選出なし

カンヌ映画祭
★パルムドール:恋(ジョセフ・ロージー
※ジョセフ・ロージー監督のたの作品には、戦災孤児を描いた「緑色の髪の少年」、トロツキー暗殺事件を基にした「暗殺者のメロディ」、貴族の没落を描いた「召使」、ナチスのユダヤ人排斥運動をアラン・ドロン主演で描いた「パリの灯は遠く」、イギリスの上流階級の偽善に着目した「できごと」、男を狂わせる魔性の女エヴァをジャンヌ・モローが演じた「エヴァの匂い」、ロリン・マゼール指揮、パリ・オペラ座管弦楽団&合唱団によるモーツァルト歌劇「ドン・ジョヴァンニ」がある。
★主演男優賞:リカルド・クッチョーラ死刑台のメロディ
ジュリアーノ・モンタルド監督。1920年代に起こった「アメリカ史の汚点」と言われるサッコ=ヴァンゼッティ事件を基に映画化。靴屋のサッコと漁行商人のヴァンゼッティは拳銃所持の密告により逮捕されてしまう。しかし、逮捕の理由は別の身に覚えのない強盗殺人だった。音楽はエンニオ・モリコーネ
★主演女優賞:キティ・ウィン哀しみの街かど
ジェリー・シャッツバーグ監督。ニューヨークを舞台に、青年が現実の生活に傷つき、ドラッグにのめり込んで行く姿を描いた作品。アル・パチーノ初主演作でもある。キティ・ウィンはアル・パチーノと生活を共にし、次第に転落していく女を演じている。
★審査員特別賞:
ジョニーは戦場へ行った(米)
※第一次大戦中の戦場で、ジョニー(ティモシー・ボトムズ)は、目と耳、両手両足を失ってしまう。移送された病院で自らの境遇を理解したジョニーは、絶望のどん底から、少しずつ生きる希望を見いだしていく。モノクロームの美しい画面で極限状態に陥った人間を主人公に静かに反戦を訴える戦争ドラマ。監督ダルトン・トランボはハリウッドの「赤狩り」の犠牲となり投獄された経験を持つ。出所後、「ローマの休日」「スパルタカス」「いそしぎ」などの脚本を書きつつ、自ら資金調達をして本作を完成させた。65歳にしての監督デヴューであった。
☆パパ ずれてるゥ!
★国際批評家賞:ジョニーは戦場へ行った(米)

★この年の主要な作品
ベニスに死す 監督:ルキノ・ビスコンティ
※舞台となっているのは現在はベネチア映画祭が開かれるベニス・リド島。静養のため島を訪れた老作曲家(ダーク・ボガード)は、ふと見かけた美しい少年タジオ(ビョルン・アンドルセン)に心うばわれる。ビスコンティは「この作品は私の生涯の夢だった」と語っており、トーマス・マンの原作に改編を加え、主人公の設定を文学者からマーラーを模した作曲家として映画化した。マーラーの楽曲をバックにして始まる導入部からして、魔力のような美しさを持った映画である。
時計じかけのオレンジ 監督:スタンリー・キューブリック
※麻薬、暴力、盗みなど悪の限りを尽くす不良グループのリーダー・アレックス(マルコム・マクドウェル)は、仲間の裏切りで捕まった。服役中に、悪人を善人に変える洗脳実験を受け、暴力を嫌悪する無抵抗な人間となって釈放される。しかし、そんな彼を待っていたのは、かつて自分が暴力の対象にしていた者たちからのすさまじい報復だった。暴力が暴力を産む近未来の世界を描いたキューブリック作品で最もカルトな人気があるバイオレンスSF。
ダーティハリー 監督:ドン・シーゲル
※サンフランシスコで女性が狙撃される事件が発生した。捜査にあたるのは、「ダーティハリー」の異名をもつハリー・キャラハン刑事(クリント・イーストウッド)。やがて「さそり」と名乗る犯人から「十万ドルを渡さなければ市民を殺し続ける」という脅迫状が届き、予告どおり、次々に無差別殺人が繰り返される。
黒いジャガー  監督:ゴードン・パークス
※ある日シャフト(リチャード・ラウンドツリー)は、ハーレムのボスから、誘拐された娘を捜し出す仕事を引き受ける。やがて誘拐事件はハーレムをのっとろうとする一味の企てであることを知ったシャフトは、黒人過激派グループのリーダーらと協力して奪回作戦を開始する。私立探偵シャフトが活躍するアクション映画シリーズの第1作。1970年代のブラック・シネマ・ブームを決定づけた作品。シリーズは、クイーンズの黒人ギャングと白人マフィアの抗争にシャフトが巻き込まれる「黒いジャガー / シャフト旋風」、アフリカ連合から黒人奴隷売買組織の調査を依頼されたシャフトが、奴隷としてアフリカへと潜入する「黒いジャガー / アフリカ作戦」と全3作で、後にサミュエル・L・ジャクソン主演でリメイク版『シャフト』が製作された。
屋根の上のバイオリン弾き 監督・製作:ノーマン・ジュイソン
※ウクライナに住むユダヤ人一家の長テビエ(トポル)は信仰と伝統を重んじていたが、5人の娘たちが次々と伝統を無視した結婚を求めるようになり、困惑する。一方、政情不安からユダヤ人は国外追放の仕打ちを受ける。長女が嫁ぐ日にみんなが歌うのが名曲「サンライズ・サンセット」。アカデミー賞撮影賞と音楽[編曲・歌曲]賞を受賞。
おもいでの夏 監督:ロバート・マリガン
※ハーミー(ゲイリー・グライムズ)と親友のオスカー(ジェリー・ハウザー)とベンジー(オリヴァー・コナント)ら多感でナイーブな少年たちがひと夏の体験をとうして大人に成長していく過程を描く青春群像劇。音楽はミシェル・ルグラン
激突! 監督:スティーブン・スピルバーグ
※ハイウェイで乗用車を走らせる男(デニス・ウィーバー)が、追い越したトラックに執拗に付け狙われる。弱冠25歳のスティーブン・スピルバーグが監督し、その才能を世に知らしめた伝説のサスペンス。最初ヨーロッパで評判になり、アメリカで公開されたのは10年後の1981年であった。

1970年代

1970年の映画(DVD)

1970年
アカデミー賞
★作品賞:パットン大戦車軍団フランクリン・J・シャフナー
※第二次大戦のアフリカ戦線で活躍したアメリカのジョージ・パットン将軍。類まれなる戦略家として恐れられながらも、激しい気性と名誉欲、奇行によって失脚を繰り返した波乱の生涯を描いた伝記的作品。フランシス・フォード・コッポラがアカデミー賞脚色賞受賞。
★監督賞:フランクリン・J・シャフナー「パットン大戦車軍団」
※シャフナーの娯楽映画の秘訣は「スターの起用」。好みのスターは、「パットン大戦車軍団」のジョージ・C・スコットをはじめ、「猿の惑星」のチャールトン・ヘストン、「パピヨン」のスティーブ・マクイーンダスティン・ホフマン。「ブラジルから来た少年」のローレンス・オリビエ、グレゴリー・ペックなどの個性派俳優である。
★主演男優賞:ジョージ・C・スコット「パットン大戦車軍団」
※ジョージ・C・スコットは「オスカー競争は実に無礼で、下品なものだ。」と受賞を拒否した。オスカー像は、結局パットン記念館に保存された。
★主演女優賞:グレンダ・ジャクソン「恋する女たち」
※グレンダ・ジャクソンの他の出演作は、ケン・ラッセル監督の「サロメ」、ロバート・アルトマン監督の「ニューヨーカーの青い鳥」、ロドリック・グラハム監督の「エリザベスR」がある。
★助演男優賞:ジョン・ミルズライアンの娘
デヴィッド・リーン監督作品。20世紀初頭、反英国派が武器の陸揚げに利用している北アイルランドの海辺の村で、古い因習に反発する娘ローズ(サラ・マイルズ)と年の差が離れた教師チャールズ(ロバート・ミッチャム)が結婚した。しかし彼に不満足なローズは、赴任してきた英国駐留軍将校(クリストファー・ジョーンズ)と関係を結んでしまう。「アラビアのロレンス」「ドクトル・ジバゴ」などのリーン作品に負けるとも劣らない完成度に仕上がっている。ジョン・ミルズは町の笑い者にされ、本人に毛嫌いされながらローズを愛し続ける知恵おくれで醜いマイケルを演じた。
★助演女優賞:ヘレン・ヘイズ大空港
※ジョージ・シートン監督作品。ローマ行きの旅客航空機に精神に異常をきたした男が爆弾を持ち込み、爆弾もろとも自殺する。機体は爆発の影響で空中分裂の危機へ!急遽近くの空港に向かうが、機体は一切の機能を停止していた。果たして乗客は…。主演はバート・ランカスター、ディーン・マーチンヘレン・ヘイズがタダ乗りするお茶目なおばあちゃん役でベテラン女優らしい存在感を示した。
ベネチア映画祭
※公式受賞作品なし

カンヌ映画祭
★パルムドール:マッシュロバート・アルトマン
※朝鮮戦争下の米軍移動野戦病院に、ふたりの軍医(エリオット・グールド&ドナルド・サザーランド)が赴任してきた。彼らは腕は抜群だが、やることなすことすべてにおいて型破りで、女性少佐ホーリハン(サリー・ケラーマン)とカタブツ少佐をベッドインさせ、そのあえぎ声を隠しマイクで全部隊に放送するなど、院内でハチャメチャな騒動の数々を引き起こしていく。戦争という愚かなゲームに対抗してハメをはずす人々を描いた、痛烈な戦争コメディ。
★監督賞:ジョン・プアマン「最後の男レオ」
★主演男優賞:マルチェロ・マストロヤンニ「ジェラシー」
★主演女優賞:オッタビア・ピッコロわが青春のフロレンス
マウロ・ボロニーニ監督。20世紀初頭のフィレンツエを舞台に、労働運動に身を投じる男と、彼を愛しつづける妻の姿を描いた文芸ロマン。音楽:エンニオ・モリコーネ
★審査員特別賞:殺人捜査(伊)
★国際批評家賞:殺人捜査(伊)

★この年の主要な作品
ある愛の詩 監督:アーサー・ヒラー
※大富豪の御曹司・オリバーと菓子屋の娘・ジェニーは、身分の違いを乗り越え恋に落ちるが…。「愛とは決して後悔しないこと」という名セリフを残した、アリ・マッグローライアン・オニール共演によるラブストーリー。フランシス・レイがアカデミー賞音楽賞。
ひまわり 監督:ビットリオ・デ・シーカ
※終戦後も帰ってこない夫アントニオ(マルチェロ・マストロヤンニ)を探すため、ジョバンナ(ソフィア・ローレン)は単身ロシアに足を踏み入れる。徐々にやつれていくジョバンナの姿は、見ていて痛々しい。戦争によって切り裂かれた男と女の運命を、壮大なスケールと美しい映像でつづった大作。共演リュドミラ・サベーリエワ
小さな恋のメロディ 監督:ワリス・フセイン
※製作は『炎のランナー』『キリング・フィールド』のデヴィッド・パットナム。 イギリスのパブリック・スクールに通うダニエル(マーク・レスター)は、バレエ練習中のメロディ(トレーシー・ハイド)に魅せられ、やがて相思相愛の関係へ。しかし、学校をサボって海へ行ったことを教師に叱られたふたりは「結婚します!」と宣言してしまい、学校じゅう大騒ぎとなる。ビージーズなどの挿入歌も効果的。
哀しみのトリスターナ 監督:ルイス・ブニュエル
※母親を亡くした16歳のトリスターナ(カトリーヌ・ドヌーヴ)は没落老貴族ドン・ロペの養女となった。女性に目がないロペ(フェルナンド・レイ)は衝動を抑えきれず、まだうぶな彼女を女にしてしまう。
エルヴィス・オン・ステージ
※1970年のコンサートを通し絶頂期のエルヴィス・プレスリーをとらえたドキュメンタリー作品。リハーサル風景から本番まで、ショーの様子が余すところなくとらえられており、6日間に及ぶ熱狂のパフォーマンスを感じることができる。
ウッドストック 愛と平和と音楽の3日間
※1969年に開催された“ウッドストック・フェスティヴァル”の大トリを務めたジミ・ヘンドリックスのプレイを収録。また全米から集まった40万人以上の観衆の熱狂する姿もあますところなくとらえ、音楽ヂキュメンタリーの枠を超え、ひとつの時代の証言となっている。
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